変われるか? 2024残業規制➁
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長時間労働が疑われ、法令違反が見つかった建設企業の事務所や現場は、全国で1815カ所(2021年度)にもなった。時間外労働の罰則付き上限規制が建設業に適用されるのを前に、「何から手をつければいいのか」と悩み、不安を抱える経営者も少なくないはずだ。では、監督・指導する側はどのように考えているのか。「悩むことがあれば、まずは相談してほしい」。取材に対し、返ってきたのはこんな言葉だった。
実際のところ、労働基準監督署の立ち入り検査で法令違反が指摘されても、必ずしもすぐに送検されるわけではない。悪質性が重大なものには刑事罰が科されるが、まずは是正勧告を通じ、自主的な改善を求めていくのが基本だ。
立ち入り検査で見つかる違反の事例はさまざま。36協定なしでの時間外労働や協定を超える長時間労働、そもそも労働時間を把握できていない例もある。こうした場合、まずは経営トップや労務管理を行う作業所長などの「使用者」が責任を問われることになる。
大規模な民間建築工事の現場を管内に多数抱える東京労働局は、2022年度から建設業をターゲットとした「働き方改革推進総合対策」を開始した。同局のP戸邦央監督課長は、自社の労働管理体制に不安があるときは「まずは相談してほしい」と呼び掛ける。監督署の敷居が高ければ、厚生労働省の委託を受けて各都道府県に置かれた働き方改革支援センターでも対応できるという。
ただ、建設業界には、個社が時間外労働削減の努力を重ねていても、発注者や元請けから短い工期を求められ、結果として長時間労働になるという実態もある。
労働行政もこうした事情は把握している。東京労働局は、建設業界の自主的な取り組みを後押しするとともに、民間を含めた発注者に対しても理解を求めていく。P戸課長は「デベロッパーや元請けも含め、建設業の働き方改革の必要性を説いていかなくては」と話す。
違法な長時間労働に関連して、建設業法で禁止される下請けたたきのような不当な取引が見つかれば、国土交通省とも連携して対応する。取引の内容によっては中小企業庁、公正取引委員会などとの連携も視野に入る。
厚生労働省の23年度当初予算案にも、時間外労働の上限規制の適用に向けた企業・国民向けの周知広報に必要な事業費が計上された。長時間労働の削減の取り組みに対し、社会全体の理解を醸成していく考えだ。
労働管理の体制を整えられるよう、働き方改革を支援する建設業向けの助成金も創設する。用途は、就業規則の作成・変更だけでなく、外部の専門家によるコンサルティングや、生産性向上につながる設備・ソフトの導入まで幅広い。36協定で規定する時間外労働の上限の引き下げ幅に応じて、最大で250万円を補助する。週休2日制の導入に対する補助も設ける。
建設業の働き方改革を後押しする機運は高まっている。長年にわたる労働慣習を変えるため、経営者が一歩を踏み出せるかが問われている。