「未来へトライ!!スポーツ施設のこれから」B稼げるスポーツ施設とは〜そのA 多目的化し稼働率を高めよ〜
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前回は稼げるスポーツ施設となるためには、興行主が稼げるVIP席や大型ビジョンといった設備に投資すべきだとお伝えした。今回は稼げるスポーツ施設となるためのもう一つの重要な観点である「施設の多目的化」について言及する。
商業施設では当たり前の発想である稼働率の向上が、スポーツ施設では重視されていない。公共施設であることに加えて体育の館であったり競技の場であるといった“する”スポーツを目的とした施設であるがゆえに、大型施設であってもスポーツ以外の用途が想定されていないことが多い。
例えば、日本では数千名規模の体育館でも木の床材であることがほとんどだ。体育館なのだから当然だろうと思われるかもしれないが、そのような規模の施設なのでスポーツ以外にもコンサートや展示会などの用途も多く、ある1万人規模の体育館では年間8割は木の床材の上に養生シートを敷いて使用しているという。であれば床面は木ではなく土間にしておいたほうが効率的であり、土間とすることで搬入などを行う作業車もフロア内に入れることができるようになる。体育の施設なのにスポーツ以外のニーズが多いというのは皮肉のようにも聞こえるが、そのようなニーズから逆算すれば、数千人規模の施設は体育の館ではなく、はじめから多目的な使途を想定したアリーナとしておくことが合理的であっただろう。
スタジアムにおいても数万人規模となれば有名アーティストのコンサートが開催されることも多いが、当然スポーツを目的とした施設であるから興行主はステージや音響装置などに膨大なコストをかけなければならない。米国テキサスにあるトヨタスタジアムは1・5万人収容のフットボール専用のスタジアムでありながら、スタンドの一辺にはコンサートステージが常設されており、音響設備もハイレベルなものが使用されている当初から多目的を想定したスポーツ施設がある。
我が国の大規模スポーツ施設においては、オリンピックや国体の開催が目的化してしまい、その後のニーズに立脚し何よりランニングコストを補うべく稼働率を上げるためにどのような施設にするべきかという発想が圧倒的に不足しているのだ。
しかしながら日本でもJリーグやBリーグのようなスポーツコンテンツの発展とライブエンターテインメントニーズの高まりにより、大人数を収容するスポーツ施設においても多目的化を標榜する施設が登場してきている。国体に向けて佐賀県が建設し今年開業した8400人収容のSAGAアリーナは、土間で座席も多様なレイアウトが組める仕様となっており、従来の施設とは一線を画す新時代の公共施設のあり方を示す好事例となっている。民設であれ、公設であれ、スポーツ施設は使ってなんぼのもの。目的やニーズから逆算した構想・設計が求められる。
※写真は従来の体育館とは一線を画し、多目的アリーナとして建設されたSAGAアリーナ。スポーツに限らず多様なイベントを誘致し稼働率を高めている(写真提供:佐賀県)
執筆者プロフィール

山谷拓志
静岡ブルーレヴズ代表取締役社長
慶応義塾大学を卒業後、リクルートを経て2007年に国内のプロバスケットボールチームである宇都宮ブレックスを創設。3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり、3期連続で黒字達成。14年茨城ロボッツ社長就任。経営を再建し21年B1リーグ昇格。21年より静岡ブルーレヴズ代表取締役社長。