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脱炭素のホンネ @既築の省エネ化という“難題”

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 改正建築物省エネ法の成立は、建築分野の脱炭素化に向けた大きな一歩となった。新築建物については種類を問わず、省エネルギー基準への適合が義務化されることとなった。だが、ある“難題”がまだ立ちはだかっている。それは、国内に残されている既築建物の膨大なストックだ。既にある建物の省エネ性能をいかに引き上げていくのか―新築に対する規制とは全く異なるアプローチが、求められている。

 「かなり取り組みを強化しないといけない」。国土交通省で建築分野の省エネ化を担当している前田亮参事官(建築企画担当)は既築への対応について、こう指摘する。新築建物では省エネ基準への適合が2025年6月までに義務化される一方、既築建物の改修による基準適合を規制的な手法で求めることは極めて難しい。
 とはいえ、日本全体のエネルギー消費量に、建築物関連が占める割合は約3割に及ぶ。カーボンニュートラルの達成に向け、国は50年までに建築ストック全体の平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能を確保することを掲げている。この高い目標の実現には、新築建物に対する規制とともに、既築建物の省エネ改修への誘導が「車の両輪」となることは間違いない。
 新築建物に対する規制により、建て替えや老朽化した建物の更新では、省エネ基準への合致が求められることになる。国交省は、こうした更新の進展に加えて改修が進むことで、例えば無断熱の建物ストックについては40年ごろまでにほぼなくなると試算。省エネ基準を徐々に引き上げていけば、更新後の建物の省エネ性能を一層高めていくことも可能だ。
 では、既築改修をいかに促進するのか。建物の所有者にコスト負担がかかるだけに、改修を促すには相応のインセンティブが必要になる。「改修は放っておいて進むものではない」と前田参事官は強調する。
 住宅の場合、例えば断熱改修では壁面や屋根を含めて、大がかりな工事になる。商業ビルの場合では、テナントが入っている間の改修が難しいといった特有の事情がある。コスト負担に加え、工事期間中は利用者に不便を強いる点も障壁となる。
 前田参事官は、省エネ改修のメリットを客観的に示すことが、市場を活性化する第一歩になると見る。後押しになりそうなのが、来年4月から施行される新築建物の省エネ性能表示制度だ。建物を販売・賃貸する事業者に省エネ性能の表示が努力義務化されることになる。
 既築建物での表示は必須でないものの、窓・給湯器など部分的な改修について省エネ性能を表示するための簡易な仕組みを今後、検討していくという。建物の省エネ性能が利用者へのアピールポイントになれば、省エネ改修の市場の活性化につながる。
 さらに、補助金も活用し、省エネ改修に弾みをつける。国交省の既存建築物省エネ改修推進事業では、改修工事だけでなく省エネ診断に対しても補助する仕組みを設けている。自治体でも、東京都のように独自に既築建物の省エネ改修に支援制度を設けている例があるという。「まずはこうした仕組みを活用し、既築建物の省エネ性能を高めるという選択肢を認知してもらいたい」というのが、前田参事官の思いだ。