「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。【第2回】建設業界が「守りのDX」を推し進めないことによるリスク
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2024年問題の影響が懸念される中で、DX化を後回しにし、アナログかつマンパワーを要する方法によって人事労務管理を続けることは、今後においてどのようなリスクが出てくるのか。今回は三つのポイントに分けて紹介していく。
一つ目は、「労働基準法に違反するリスクが高まること」。
これはまさに2024年問題に直結する課題で、アナログな管理体制は意図しない法を犯してしまう可能性を十分にはらんでおりリスクが高い。また、労基法に違反するということは、企業存続を危うくさせるリスクにもつながってしまうため、人手が足りない中でもIT化を駆使した仕組み作りなどで、状況を早期に改善していくことが望ましいと言える。
二つ目は、「労働時間/給与計算におけるケアレスミスが発生しやすいこと」。
企業によっては、事務の方が手計算により労働時間や給与計算を行い、目視による最終確認を経た後、従業員へ給与支給をする企業がいまだに存在している。
また給与計算を行う際は、労働時間に加えて残業時間の計算は必須であり、その業務は複雑でミスが起こりやすい。このような点からも、システム化しないことで起きる計算ミスによるリスクはかなり大きいと言える。
三つ目は、「不透明な労働時間の管理による従業員エンゲージメントの低下」
紙のタイムカードや日報を使ったアナログな集計方法では、従業員の労働時間をリアルタイムで把握できない状況にある。
「2024年問題」が取り沙汰される中で、従業員も労働時間について敏感である。リアルタイムで勤怠状況を把握できないことが「情報の不透明性」を通じて、管理者だけでなく従業員からの信頼を欠くことにつながり、結果としてエンゲージメントが下がってしまうリスクがあると考えている。
実際、建設業界より先に時間外労働の上限規制の対応に追われた他業界においては、従業員が残業時間に対して敏感になったことで、小数点レベルの細かな数字のズレがあるだけで労務担当へ問い合わせをする従業員が増えたという事例も出てきていた。
他業界においても、自身の労働時間に対して敏感な従業員が増えた中で、2つ目のリスクとして前述したような「計算ミス」が実際に起きた際は、管理体制への問題意識が会社全体へ波及し、後手に回る形で慌ててシステム化せざるを得ない状況に陥った事例も存在している。建設業界においても、この点は強く意識して取り組むべき課題と言えるであろう。
このように、現場のIT化が見込めるような「攻めのDX」だけではなく、法令順守などの「守りのDX」を推し進めることは、企業の経営基盤を強固なものにする上で、大事な観点となる。
ではなぜ、重要なことだとは分かっているものの、建設業界では「守りのDX」の進みが、他業界と比べても遅い傾向にあるのだろうか。そのポイントの詳細については、第3回にて深掘りしていく。
執筆者プロフィール

松葉治朗(まつば・じろう)
jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者)
人材系ベンチャー企業を経て、ネオキャリアに転職しクラウド型人事労務サービス「ジンジャー(https://hcm-jinjer.com/)」の立ち上げに携わる。その後、同サービスのCPO(最高製品責任者)に就任し、HRテクノロジーをけん引するプロダクトへと成長に導く。また、人事データ活用に関するセミナーへ登壇するなどHRテクノロジーの啓発活動にも積極的に取り組んでいる。