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新連載コラム 『これで解決!問題社員の労務トラブル』 〜会社も安心!社員も納得!〜 =第1回=「建設業に起こりがちなトラブル」

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昨年後半から、大手ファーストフード店での「名ばかり管理職」の問題、大手派遣会社による日雇い派遣に関する違法派遣と企業の廃業による雇用不安の拡大、大手量販店での残業代未払いなど、企業と働く側との労務トラブルが表面化してきています。このように各業界でのさまざまな労務トラブルがニュースとして取り上げられる動きは、確実に今後も増え続けるでしょう。「対岸の火事」と高みの見物をしているわけにはいかず、本業界においてもさまざまな労務対策を講じる必要が出てきています。

厚生労働省の指針からみても、今年は安全衛生面から働く環境を整備するよう指導が入る動きが見られるところから、実際に、建設業で起こりがちな労務トラブルとはどのようなものが多いのか、どんな点に注意をするべきなのか、改めて確認をしたいと思います。

1.突然社員が出社しなくなり、そのまま退職してしまう
2.現場での就業時間が把握しにくい
3.安全衛生に関する違反や、モラルの低い社員による服務規律違反がまだまだ多い
4.就業環境の整備不足から発生する労災と労災隠しによる事業所の検挙

1.突然社員が出社しなくなり、そのまま退職してしまう
これは業界問わず最近増えており、入社年数が浅い社員に起こりがちなトラブルです。
「ある日突然に社員と連絡が取れなくなる」「1週間程前から休みがちだったのが出社しなくなってしまう」など企業側にも直接の原因が分からず、対応に困ってしまうケースです。
例えば、業務上のミスを上司に注意されたのが原因で出社拒否に至る場合は、原因となった上司との関係回復を図るなど対策を講じることもできますが、「会社に行きたくない」「つまらない」「飽きた」など出社拒否につながる直接の原因がはっきりしない場合には、残念ながら退職として扱うしかありません。
また突然来なくなった社員には「給料も支給したくない…」と思われるのも当然の心理ではありますが、労働基準法上はそうはいきません。働いた分の給料は支給しなければならないのです。
このような状態に陥らないようにするには、
@技術や経験だけを考慮せず、社風に合った社員を採用する
A入社時に雇用契約書・入社承諾書・誓約書などの提出書類をしっかり取り交わし、いい加減な会社ではないことを意識付けさせる
B身元保証人をたて、万が一の場合に備える
C入社後も一定期間ごとに社員と面接を行い、日々の問題はないかを確認する
 (コミュニケーションは会社側から積極的に)
など細かな対応を行うことが肝要です。

2.現場での就業時間が把握しにくい
現場での就業状況を把握しにくく、実際の就業時間と会社が把握している就業時間とにズレが生じることが多いのも、この業界の特徴といえます。就業時間の把握ができてないということは、残業代未払いとの労働基準監督署からの指摘を受けかねません。
時間管理は現場管理者の職務責任となりますので、日々の業務管理の中で就業時間を把握するようにしていく必要があります。

3.安全衛生に関する違反や、モラルの低い社員による服務規律違反がまだまだ多い
残念ながら安全衛生面での対応や、モラルの低い営業マンによる売り上げ着服など、犯罪につながってしまうような服務規律(=日常の業務を行うためのルール)違反が多いのが実態です。
服務規律については、通常、就業規則内に定められていますが、その内容については具体的になっているでしょうか。ひな形の就業規則にあるような、広く一般的な内容を定めておけばいいものではなく、業界の特性や自社として守るべき・守ってほしいルールを「より具体的に」定めることで、結果として労務トラブルから企業を守ることができます。服務規律は懲戒処分とも連動するものですので、「より注意深く扱う必要がある」との意識に立って取り扱ってください。

4.就業環境の整備不足から発生する労災と労災隠しによる事業所の検挙
平成19年度の労働災害による死亡者が約1,300名(内、建設業461名で最多)と、依然として災害発生は高い水準となっています。特に建設業では、作業主任者を選任していなかったり、足場の墜落防止措置が不十分であったりなど、労働災害時の安全衛生法違反による検挙数が減少せず、労災隠しも行われているのが実情のようです。
厚生労働省では、平成20年度からの5年間を計画期間とする第11次の労働災害防止計画を策定しており、機械災害、墜落・転落災害、交通労働災害等の災害対策や、労働災害多発業種対策等の徹底を図り、「危険性又は有害性等の調査等」の実施促進を掲げている点から、今年度以降の実地調査が増えるものとみています。

執筆者プロフィール

成澤紀美(スマイング取締役、社会保険労務士)