これで解決!問題社員の労務トラブル 〜会社も安心!社員も納得!〜 =第5回=「遅刻・早退3回で欠勤1日。これって本当に大丈夫?」
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「早退」はともかくとしても、「社員の遅刻をどうにかしたい」と思う企業は多いようです。遅刻に対するさまざまな対応やペナルティの中でよく聞くのが、「遅刻や早退が3回になったら1日分や半日分の給与を差し引いている」というもの。これって本当に大丈夫なのでしょうか?
遅刻や早退した時間に応じて給与から時間分を差し引くといった扱いをする企業は、少なくないと思います。この方法は「ノーワーク・ノーペイの原則」といい、実際に社員から労務が提供されていない分の賃金は発生しないという考え方に基づくものです。法律上も問題にはなりません。
これ対して、遅刻早退を懲戒処分の一つと考え、「遅刻早退が3回になったら、遅刻早退時間が合わせて1日分に満たないにもかかわらず、欠勤1日分を給与から差し引く」とか、「1回の遅刻時間が3分や5分であったとしても1回の遅刻は30分として給与から控除する」という方法は、労働基準法違反となります。
労働基準法では賃金の支払い方法について、「通貨で、直接本人に、全額を、毎月1回以上、期日を決めて支払うこと」とされており、実際の遅刻早退時間数以上に給与から差し引く扱いは、この「全額を支払うこと」に違反しているとされてしまうのです。
そうはいっても、真面目に出勤している社員がいる中で、遅刻を繰り返す社員に何のペナルティも与えることができないのは、職場の秩序維持を図るためには不十分です。やはり何かしらのペナルティを課し、本人の自覚を促すとともに、健全な就業環境を維持したいという考えがあって当然です。
この場合は、制裁の意味での一定の減給を行うために、就業規則上に懲戒処分となる理由の一つとして「正当な理由がなく遅刻、早退、欠勤を一定以上重ねたとき」と定めておき、この処分により減給を行うこととします。
ただし、これを定めたからといって無条件に減給できるわけではありません。「1回の減給額は1日分の平均賃金の半額以内」であり、また減給額の総額は「1回の給与締め支払い期間で支払われる給与額の10%以内」までと制限されていますので、注意が必要です。
上記のように、毎月の給与だけではペナルティに一定の制限があることから、人事評価内に勤務態度評価を設けて評価を行い、給与額の査定に反映させたり、賞与に対してペナルティを課す方法を取ることも有効です。
例えば、賞与に対してペナルティを課す場合、賞与の支給方法は会社側が任意で決めることができますので、「遅刻1回で1,000円を減額する」などとして行います。
遅刻、早退、無断欠勤のような規律違反は、そのままにしておくとボディーブローのように深く静かにほかの社員の就業意識にも影響を与えるものです。就業ルールに対する企業の考えと、これに違反した場合のペナルティを明確に示しておくことが重要でしょう。
★原則的な平均賃金の計算方法
平均賃金を算定する事由の発生した日以前3カ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額
給与締切期間がある場合には、締切日ごとの通勤手当、皆勤手当、時間外手当など諸手当を含み税金などを控除する前の給与額3回分を、その期間の総日数で割った金額
★関連法規
労働基準法 第24条(賃金の支払)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
労働基準法 第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
★関連通達(昭和63年3月14日 基発第150号、婦発第47号)
5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットするような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカットについて、賃金の全額払の原則に反し、違法である。なお、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として、法第91条の制限内で行う場合には、全額払の原則には反しないものである。
執筆者プロフィール
成澤紀美(スマイング取締役、社会保険労務士)