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Catch-up 「繰越」に注目集まる

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 国土交通省をはじめ国の公共事業関係費で、前年度予算を翌年度に持ち越す「繰り越し」が注目されている。建設業者にこなしきれないほどの事業量が未消化になっているとの報道も一部にあるが、斉藤鉄夫国土交通相は8月26日の会見で「その認識は正しくない」と反論した。繰り越し分も含めて翌年度末にはほぼ全額が執行できており、最終的に不用となった金額はわずかだという。むしろ、柔軟な繰り越しや、国庫債務負担行為の活用が施工時期の平準化に果たした大きな役割は無視できない。
 2020年度の国の公共事業関係費のうち、翌年度に繰り越したのは35・4%に当たる4兆6937億円。金額ベースでは10年度の約2・5倍となり、「消化できない積み残し案件」との見方も一部に出た。
 しかし、繰り越した予算も翌年度には大半が消化されている。国交省の予算執行状況を見ると、20年度から繰り越した分と21年度当初予算の合計分の91%は21年度末までに契約できている。最終的に不用となった金額は1%程度に過ぎない。
 繰越金額が増加した背景には、大規模な補正予算の編成が関わる。20、21年度には「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための5か年加速化対策」を計上。いずれも年度後半に成立したため、速やかに発注手続きを進めていても一定程度の繰り越しの発生は避けがたい。
 一方で建設業界にしてみれば、年度末に発注され、翌年度早々に着工できる工事の増加は歓迎できる。従来問題となっていた極端な業務量のアップダウンの解消につながるためだ。4〜6月の閑散期が解消されれば、人・機材を有効に活用でき、建設会社が備えている施工力を最大限生かせる。年度を通じて業務量を平たんに安定させられれば、業界が直面する働き方改革という難題解決の一助にもなる。
 国交省では繰り越しに加えて、年度をまたぐ契約を可能にする国庫債務負担行為も積極的に活用。工事量が年度末に集中するのを防ぐとともに、複数年度にわたって計画的にインフラを整備できる体制を整えている。
 そもそも、現状の予算規模は建設業界の施工力を上回るものなのだろうか。建設技能者の労働者過不足率は13年度をピークに低下傾向にある。建設業団体からもICT活用、DX推進を原動力に「十分な施工余力を有している」との声が寄せられている。
 激甚化、頻発化する災害への備えや老朽インフラの着実なメンテナンスなど、インフラ分野では喫緊の課題が山積している。「繰り越し」をはじめ、必要な予算を円滑に執行できる制度の積極活用は、国民の安全・安心を守り、社会経済活動を支える上でも大きな意味を持つはずだ。