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Catch-up 洪水対策と脱炭素

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 7月に国土交通省が提唱したハイブリッドダム構想。現状でダムの貯留水は、「治水」「利水」の二つに分けて使える量を設定している。この運用を改め、どちらにも使えるハイブリッド容量≠設けようというものだ。堤体の改造や発電施設の設置などのハード整備も必要となる新しいダム事業である。
 ハイブリッドダムを実現することで、大雨が予測される場合には、より多くの貯留水を事前に放流でき、洪水への一層の備えとなる。平時には天候を見極めながら、できるだけ水を貯め込むことで、より安定的に水力発電が行えるようになる。
 全国の既存ダムをハイブリッドダムに変えることができれば、新規のダム建設に頼ることなく、治水に使えるダムの貯水容量を現状より増やすことができる。水力発電を推進することで脱炭素化にもつながる。頻発・激甚化する自然災害とカーボンニュートラルに対応できる一挙両得な構想だ。
 とは言え、成功させるためには、効果をより高めるためのダムの改造や気象予測の高度化などクリアすべき課題も多い。
 せっかくハイブリッド容量を設けても、その容量をフルに活用できなければ絵に描いた餅に終わる。例えば、事前の降雨予測が正確につかめなければ、十分な事前放流に踏み切ることができずに、大雨に備えることもできない。一方で、平時にはより多くの水量を確保することで安定的に発電することが求められる。
 そこで必要となるのが気象予測の高度化とダム容量の増大化だ。国交省では、人工知能(AI)技術を活用した気象予測の高度化と併せて、既存ダムの堤体のかさ上げや放流管の増設で、ダム容量そのものを増やすとしている。ダム全体の容量が増えれば、比例してハイブリッド容量も増え、治水・利水機能の両効果をより高めることできるからだ。
 具体化に向けて国交省は、河川管理者などのダム事業者と、水力発電に取り組む民間企業で構成するSPCなど、従来のダム事業ではなかった新たな事業スキームを想定する。事業成功のポイントは、民間企業に参入のうまみを感じてもらえるかどうか。そのためにも、既存ダムの改造などにより、水力発電を安定的に稼働し十分に採算が見込める水量を確保することが不可欠になる。
 国交省はきょう10月7日の期限で、ハイブリッドダムに関心のある民間企業とのサウンディング(官民対話)を終える。民間投資が可能な治水と水力発電(利水)を両立できる方策に加え、発電した電力を活用した地域振興策の提案も受け付けたようだ。2023年度からは具体地区を想定した実現可能性調査がスタートする。