これまで既存建築物の増改築において、「増築部分の床面積が既存部分の2分の1以上である場合、既存部分も最新の耐震基準に合わせた性能の確保が求められる」いわゆる2分の1ルールから、結果として建て替えが選択されがちで、既存ストックの活用が進まない一因となっていた。国土交通省は、2008年4月に全体計画認定に係るガイドラインを一部改正し、増築部分がエキスパンションジョイントで分離されている既存建築物について、計画期間を5年から20年に緩和。同事業は全体計画を20年に設定し、段階的な増改築を実現した東京都の特別養護老人ホーム等施設整備費補助事業において初めての事例となる。一つの施設で新旧の耐震基準を持つ建物は少なくなく、災害に強い都市づくりへ向けて今回の事例がモデルケースとなり、リニューアルの需要拡大が期待される。
施工を担当した清水組の新井年夫所長は、「新築と増築の性格を持った現場」と話す。既存の施設は、長方形の敷地に東棟と西棟の2棟が立地。今回は、東棟北側の設備施設を除去し、新東棟の半分に当たる北棟を新設。施設機能を北棟に移し、既存東棟の解体を行う。跡地に新東棟の南側を新築して結合させ新東棟として整備するというもの。西棟については内部改修と耐震補強を施し、27年度に改築を行う予定となっている。
職員らと連携した施工計画を実践
設計を担当したリンテックの大川健代表取締役は、「今回は施工者と職員らの連携が施工中も質の高いサービスを実現できた要因。こうした施設の居ながら工事において、運営組織が変化に対応できるかも重要になってくる」と指摘する。
施工中は、施設職員らと綿密な打ち合わせを繰り返し、利用者の生活リズムを守りつつ、職員の動線に配慮し、利用者へのサービスを低下させることなく工程を調整。日々の工程に加え、使用する重機が発生する音に至るまで利用者・職員・周辺住民へ細かに周知。施設の性格上、常に緊急車両の動線を確保しつつ、安全で安心な施工に取り組んできた。
職員のアイデアを取り入れた施設へ
施主である第二万寿園では、職員らでプロジェクトチームを編成し、設計段階から利用者へ質の高いサービスを提供するという目線から意見を反映させてきた。松田幸夫施設長は「職員一人ひとりが新しい施設を創っているという意識づけにより、職員らのさまざまなアイデアを盛り込んだ施設に生まれ変わった」と振り返るとともに、「細かな点まで何度も打ち合わせを重ねてよく対応してくれた」と施工者へ信頼を寄せる。
■工事メモ
▽工事名−特別養護老人ホーム第二万寿園増築・改修工事(東村山市富士見町2-1-2)
▽発注者−社会福祉法人東京蒼生会
▽建物概要−RC造4階建て延べ5470.75u、建築面積2238.78u、敷地面積3488.91u
▽予定工期−2011年12月31日まで
▽設計者−リンテック(新宿区新宿1-31-16)
▽施工者−清水組(日野市日野本町4-6-6)