応援!2025大阪・関西万博
〜えがく、つくる、たのしむ〜〈2025年2月号〉

2025年4月13日、大阪市の夢洲(ゆめしま)で大阪・関西万博が開幕する。
国を挙げて取り組むこの一大イベントの成功に向け、企画・整備・運営に携わる多くの人たちにより、万博会場がどのようにえがかれ、えがかれたデザインがどのようにつくられ、つくられた会場をどのようにたのしむことができるか。
建通新聞では24年10月から25年3月まで、大阪・関西での万博開催のさらなる機運醸成へ、月替わりで「応援!2025大阪・関西万博〜えがく、つくる、たのしむ〜」を連載する。創造力や技術力を結集した会場施設を紹介する他、万博に関わる人たちへのインタビューなどを通じて、未来社会を照らす万博の魅力、そして未来への入り口となる建築の魅力を伝える。
On April 13, 2025, the Osaka-Kansai Expo will be held at Yumeshima, Osaka City. People involved in the planning, developing, and operating of this national event will be asked to draw up a plan of how the Expo site will be envisioned, how the envisioned design will be created, and how visitors will be able to enjoy the created site.
From October 2024 to March 2025, we, Kentsu Shimbun, will publish a series of monthly articles entitled "2025 Osaka-Kansai Expo ~Design, Build, and Enjoy~" to help build momentum for the event. In addition to introducing the venue facilities that combine creativity and technology, the series convey the appeal of the Expo as an illuminator of future society and of architecture as a gateway to the future through interviews with people involved in the Expo.
1. 開幕まで残り数カ月、科淳・2025年日本国際博覧会協会副事務総長に聞く「整備は着々と進む」
Deputy Secretary General Takashina Jun
整備は着々と進んでいる―。2024年12月20日に開かれた大阪・関西万博会場建設地(大阪・夢洲)での取材会で、万博協会の科淳副事務総長はそう答えた。開幕まで残り数カ月という段階で、工事の遅れを指摘する声は少なくない。ただ、会場建設に携わる工事関係者は皆、開幕時の完成を視界に捉え、それぞれの仕事に懸命に取り組んでいる。工事が進む会場内を見て「工事に携わった方の苦労のたまもの」と語る科副事務総長に話を聞いた。
(2024年12月20日「夢洲取材会」囲み取材より編集)
"The construction is progressing steadily," said Jun Takashina, Deputy Secretary General and Executive Board Member, at a press conference held on December 20, 2024. With only a few months to go before the opening of the Expo, many are pointing out the delays of constructions. However, people involved in the construction of the Expo site is working hard at their respective jobs, with the completion of the Expo in their sights. We interviewed Jun Takashina, Deputy Secretary General, who said, "The hard work of those involved in the construction is paying off," as he looked around the venue.
(Edited from an interview at the Yumeshima press conference on December 20, 2024)
■パビリオンは完成へ
「シグネチャーパビリオンや民間パビリオンなどは着々と工事が進み、完成している。海外パビリオンについてもタイプAは全て着工し、完了証明を取得したパビリオンも出てきた。それぞれのパビリオンがしっかりと工事を進めている印象だ。4月の開幕までに、お客さんを迎えられる体制をつくっていきたい」
「23年の500日前の段階で、大屋根リングの中にはパビリオンがまばらに立ち始めていただけだった。24年には、能登半島地震の復旧、復興を最優先にしつつも、万博を成功させるため、それぞれの工事に取り組んできた。(今見てみると)あまり隙間もないくらい、パビリオンが立ち並んできた。工事に携わった方のさまざまなご苦労のたまものだと感じる」
◇Pavilions to be completed
"Construction of the Signature and the Private Pavilions have been steadily progressing and have been completed. As for the Official Participants' Pavilions, construction has begun on all Type A pavilions, and some pavilions have received completion certificates. I have the impression that each pavilion is making solid progress, and we hope to have a system in place to welcome visitors before the opening of the exhibition in April."
"As of 500 days before the opening, only a few pavilions had begun to stand sparsely inside of the Grand Ring. And in 2024, while the top priority was restoration and recovery from the Noto Peninsula Earthquake, each facility was being worked on to ensure the success of the Expo. Looking at all of the pavilions now, there is not much room left. I feel that this is the result of the hard work of those involved in the construction."
■“つながりの大切さ”を考える万博に
「万博にはさまざまな役割があるが、約160の国と地域が大屋根リングという一つの空間の中に半年もの間、一緒にいること、それは他では考えられない機会を作ることになるはずだ。今回の万博にはウクライナなども出展を決定している。こうした国々も含め、(万博への出展を通じて)一緒になってつながりの大切さ、あるいはいのちの大切さを考える貴重な機会になるのではないか」
「万博は『いのち輝く未来社会のデザイン』をメインテーマとしており、サブテーマも三つ設定している。各国もそのサブテーマに沿ったパビリオンを体現することになる。万博会場ではさまざまな国と触れ合う機会もあれば、未来の技術を体験することができる機会もある。さまざまな体験を持ち帰ることができる万博を新たなスタート台としてほしい」
◇To Think about "the Importance of Connection"
"The Expo has many roles to play, but to have approximately 160 countries and regions together in one space, the Grand Ring, for six months, should create an opportunity that would not otherwise be possible. Countries like Ukraine have also decided to participate in this year's Expo. I believe this will be a valuable opportunity for these countries and others to come together and think about the importance of connection and the value of life.
"The main theme of the Expo is 'Designing a Future Society for Our Lives,' and there are three sub-themes. Each country will have a pavilion that embodies one of the sub-themes. At the Expo site, visitors will have the opportunity to interact with a variety of countries and experience the technologies of the future. I hope that the Expo will serve as a new launching pad for the many different experiences that visitors will take home with them."
■運営面の準備進め、万全の体制で開幕を
「多くの方に万博会場に足を運んでもらうためにも、展示内容や体験内容など中身の発信をこれまで以上に行っていく。会場の建設工事は軌道に乗っているが、運営面では、物資の輸送や警備、防災対策などについて考える必要がある。計画はある程度できており、マニュアル作成やスタッフの育成などを行い、万全の体制で開幕を迎えたい」
◇Preparing for the opening
"In order to encourage more people to visit the Expo, we will do more than ever to communicate the content of the exhibits and experiences. Construction of the Expo site is on track, but in terms of operations, we need to consider transportation of supplies, security, and disaster prevention measures. We have a plan in place to a certain extent, and we will develop a manual and train staff to ensure that we are fully prepared for the opening of the event."
2. シグネチャーパビリオン さまざまな角度から『いのち』について考える
Exploring Life―Signature Pavilions
万博会場の中心には、8人のテーマ事業プロデューサーが手掛けるシグネチャーパビリオンが配置される。各界で活躍するプロデューサーが、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」をそれぞれの立場で解釈し、展示やイベントなどを通じて発信する。シグネチャーパビリオンが「いのち」について考えるきっかけとなる。
At the center of the Expo site, there will be 8 Signature Pavilions created by each theme project producer. The producers, who are active in various fields, will interpret the theme of the Expo, "Designing Future Society for Our Lives," from their own perspectives and communicate through exhibitions and events. The Signature Pavilions will provide the visitors an opportunity to think deeply about "life."
■Better Co-Being(宮田裕章プロデューサー)/ MIYATA Hiroaki: Resonance of Lives
テーマ事業「いのちを響き合わせる」を担当する。パビリオンは屋根も壁もなく、万博会場中央にある静けさの森と一体化しているのが特徴。来場者はグループを組み、三つの共鳴体験を巡りながら未来に向かう手がかりを探す。
■いのちの未来(石黒浩プロデューサー)/ ISHIGURO Hiroshi: Amplification of Lives
テーマ事業「いのちを拡げる」を担当。パビリオンの外装材には膜を使用し、水が屋上から外壁を流れ循環する「水膜」によるファサードデザインとなっている。パビリオン内には、アンドロイドや小型ロボットなどを展示し、企業やクリエーターが考えた50年後の未来を体験することができる。
■いのちの遊び場 クラゲ館(中島さち子プロデューサー)/ NAKAJIMA Sachiko: Invigorating Lives
テーマ事業「いのちを高める」を担当する。漂うクラゲを連想させる大屋根は鉄骨トラス材と膜材で構成。1階部分にはシアター、2階部分には音楽と数学をテーマにした「五感の遊び場」を配置する。パビリオンの周囲は丘のように盛り上げ、遊具や関西地方の植生などを配置する。
■null2(落合陽一プロデューサー)/ OCHIAI Yoichi: Forging Lives
テーマ事業「いのちを磨く」を担当。特殊な鏡面膜で構成された「ボクセル」と呼ばれる大小さまざまな立方体が集まったパビリオンは、文字通りヌルヌルと動く外観となっている。パビリオン内で来場者は、3Dスキャンシステムで自身の情報を入力。データを基に作った3D映像による分身と対話できる。
■いのち動的平衡館(福岡伸一プロデューサー)/ FUKUOKA Shin-ichi: Quest of Life
テーマ事業「いのちを知る」を担当する。パビリオンは巨大な細胞膜が降り立ったような造形をしており、膜屋根を支えるリング状の鉄骨と格子状に張り巡らされたケーブルとのバランスによって屋根を支えている。内部には全周約30bの立体スクリーン「クラスラ」を設置。32万個の光の粒子が細胞分裂や「いのち」の姿を描く。
■いのちめぐる冒険(河森正治プロデューサー)/ KAWAMORI Shoji: Totality of Life
テーマ事業「いのちを育む」を担当。パビリオンは57個の「セル(細胞)」で構成されており、鉄骨フレームと大阪湾の海水で練ったコンクリート「HPC(ハイブリッド・プレストレスト・コンクリート)」で造られる。MR/VRで体験するシアターや高精細映像を通し、宇宙・海洋・大地に宿るいのちのつながりを表現する。
■EARTH MART(小山薫堂プロデューサー)/ KOYAMA Kundo: Cycle of Lives
テーマ事業「いのちをつむぐ」を担当する。全国各地から集めた「かや」を使ったかやぶき屋根のパビリオンでは、食文化の可能性とテクノロジーによる食の最先端を見ることができる。「空想のスーパーマーケット」で食の現在を見つめ直し、食べることの喜びといのちを紡いでいくヒントを探す。
■Dialogue Theater―いのちのあかし―(河P直美プロデューサー)/ KAWASE Naomi: Embracing Lives
テーマ事業「いのちを守る」を担当。廃校となった旧奈良県十津川村立折立中学校の北棟・南棟と、旧京都府福知山市立細見小学校中出分校を移設しパビリオンとして活用する。内部のシアターでは、初めて会う世界中の人とスクリーン越しに対話することができる。
石黒浩プロデューサー「いのちの未来」館 現場技術者に聞く
―12bのモックアップ(模型)で流水確認
石黒浩テーマ事業プロデューサーのシグネチャーパビリオン「いのちの未来」館で、設計協力・施工の現物提供協賛した長谷工グループは、2024年10月17日に博覧会協会に建物を引き渡した。8人のプロデューサーがテーマごとに展開するシグネチャープロジェクトで最初に引き渡しを終えた物件となる。
鉄骨造2階建てペントハウス付きの建物で、外装材に膜を使い、水が流れるようになっている。現場を指揮した特任所長の江口隆一氏は「外装膜検証用に高さ12bの膜のモックアップを京丹波にて製作した。以後石黒先生に流水確認をしていただき、検証後、本施工工程へと移行し、丁寧に造り上げた」と強調する。主には流水を妨げないディテール、取り付け工程、水量の微調整を詳細検討。さらに光の演出照明効果なども検証し、実際の建物の出来栄えにつなげた。
完成後、きれいに水が流れるようにするためにも高い品質を確保しなければならない。「四隅はカーブを描いており、水をカーテンのように流すのは本当に難しかった」と振り返る。
―ピアノ塗装仕上げでつややかな曲面
1階のコア部分に鋼板曲面耐震壁という特殊な壁材を採用。造船技術を駆使し、厚さ6_の鋼板を楕円(だえん)形に組み立てる。3次元曲線だったため現場での墨出し作業を慎重に行いながら、24枚のパネルをジョイントして製作。構造と意匠を兼ね備え、ピアノ塗装で仕上げたつややかな曲面になった。
エントランス内部
“お客さまの信頼に応える品質を提供する”という思いで、これまでも現場に携わってきた江口氏は、「マンションを専門とするわれわれが、このような建物の施工に携わるのは初めて。これまで以上に一つ一つのチェックを厳しく実施し、施工精度にこだわって工事に臨んだ。その結果が水景に表れるだろう」と自信をのぞかせる。
来客者たちに「この水のカーテンを見ていただきたいし、下からはミストが出て、ライトアップもある。色鮮やかに変化する様子を楽しんでいただきたい」と思いをはせた。
工事概要
設計者 石本建築事務所
設計協力 長谷工コーポレーション大阪エンジニアリング事業部
施工者 長谷工コーポレーション、不二建設
規模 鉄骨造2階建てペントハウス付き延べ2014平方b
工期 2023年9月1日〜24年10月17日
福岡伸一プロデューサーによるシグネチャープロジェクト 「いのちとは何か」を知るパビリオンに
大阪・関西万博の中で8人のプロデューサーが主導するテーマ事業「シグネチャープロジェクト(いのちの輝きプロジェクト)」。8人のうち、唯一の生物学者である福岡伸一氏は、シグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」について「『いのちとは何かを知る』ということに正面から向き合ってこのパビリオンを作った」と話す。万博開催の意義が問われる中、その答えとして「生命の問題を考える」「これからどのようにいのちと向き合っていけばいいか」「そのビジョンや生命哲学と向き合っていく」、これらメッセージをシグネチャーパビリオン内で発信する。
(2024年12月20日「夢洲取材会」囲み取材より編集)
The Signature Project (Brilliance of Life Project) is a thematic project led by eight producers for the Osaka-Kansai Expo, and Shinichi Fukuoka, the only biologist among the eight who produced the "Dynamic Equilibrium of Life” Pavilion, says, "we created this pavilion by facing and dealing with the question of 'knowing what life is'. As an answer to the question of the significance of holding the Expo, the Signature Pavilion will convey the message of "considering the issue of Life," "how we should face Life in the future," and "confronting that vision and philosophy of Life.”
(Edited from an interview at the Yumeshima press conference on December 20, 2024)
■生命の38億年の旅路をたどる
「このパビリオン(の外観)は“ふわり”と1枚の細胞膜が大地に降り立ったような生命的な構築となっている。また、内部では『クラスラ』と呼ばれる立体LEDの光の粒で、生命の38億年の旅路を見るシアターを作る予定だ。『生命がどこから来てどこへ行くのか、私たちの命というのは一体何なのか』ということについて、皆さんに光のショーとして知ってもらうことができる」
◇Tracing the 3.8 billion year journey of Life
The exterior of the pavilion is a lifelike structure, as if a single cell membrane "softly" landed on the earth. Inside, we plan to create a theater with three-dimensional LED light particles to show the 3.8-billion-year journey of Life. The light show will show where Life came from and where it is going, and what our life is all about.
■自分自身のいのちを考えるきっかけに
「『いのち』は、ストックを持たずに、全てをフローで動かしている。そして、環境からもらってきたものを他の生物に手渡しながら循環し、進化の流れ、そして地球環境を支えていると考えている。(来場者には)生命とは『弱肉強食、優勝劣敗』と言われているが、利他的に共生の進化の歴史として成り立っているということを知ってほしい。そして、人間だけが今、非常に利己的に振る舞い、共生を忘れている、これが環境問題を悪化させているのではないかという気づきも得て、行動変容に結びつけてほしい。さらに、自分自身のいのちについても考えてほしい」
◇A chance to think about your own life
“Life" has no stock, but is entirely driven by flow. It is a cycle of what it receives from the environment and handing them over to other organisms, and I believe that it supports the flow of evolution and the global environment. I want the visitors to realize that while Life is said to be “the Survival of the Fittest,” it is actually a history of altruistic and symbiotic evolution. I would also like them to realize that humans are now behaving very selfishly and forgetting about symbiosis, and that this may be exacerbating environmental problems, and I would like them to link this to behavioral change. I also want this to be a chance to think deeply about their own lives.
■いのちについて考え、「死」にも向き合う展示を
「このパビリオンで『いのちというのは有限である、必ず死を迎える』ということを皆さんに知ってもらうため、この万博で唯一、「死」の問題に対して向き合っていく。死というものは必ずしも悪や害、悲しむべきことではなく、生命の必然であるということを感じてもらうための展示を考えている」
◇Exhibit to think about Life and face "Death" as well
The pavilion will be the only place at the Expo where the issue of “death” will be addressed. Everyone will understand that life is finite and that death is inevitable. Death is not necessarily evil, harmful, or something to be grieved, but rather an inevitable part of life.
3. 期待の若手建築家が競演 個性豊かな発想が見どころ
20 facilities designed by young architects
万博会場では、著名な建築家がデザインしたパビリオンだけでなく、将来が期待される若手建築家が設計した施設も見ることができる。
若手建築家はそれぞれ、「ギャラリー」「展示施設」「ポップアップステージ」「サテライトスタジオ」「トイレ」の計20施設を担当。「多様でありながら、ひとつ」というデザインコンセプトの下、積み木のようなトイレやベジタブルコンクリートを使ったギャラリーなど、個性豊かな施設が並ぶこととなる。
建築家はどのような思いを施設に込めたのか。従来にない発想で設計された個性豊かな施設をどのように施工したのか。ここではその一部を見てみる。
At the Expo site, visitors can see not only pavilions designed by prominent architects, but also facilities designed by promising young architects.
Each of the young architects is responsible for a total of 20 facilities: gallery, exhibition facility, pop-up stage, satellite studio, and restroom. Under the design concept of "Diverse, yet United," the facilities will be lined up in a variety of unique ways, including a restroom that looks like building blocks made of wood or a gallery made of vegetable concrete.
What kind thoughts did the architects put into the facility and how were these unique facilities, designed with unconventional ideas, constructed? Let's take a look at some of them.
■自らの身の回りにあるものの価値に気づく万博に
トイレ2設計者 竹村優里佳氏(Yurica Design and Architecture)
2024年12月には、20施設のうち「トイレ2」が万博会場内で公開された。同施設には、大阪城再建に使うはずだった「残念石」と呼ばれる石が活用される。「残念石」は、400年ほど前の人々が大阪城再建のために切り出した花こう岩のうち、利用されず各地に取り残されたもの。今回の万博では、京都府木津川市に残された残念石が運ばれ、屋根を支えるように並ぶ。
設計は小林広美氏(Studio mikke一級建築士事務所)と大野宏氏(Studio on_site)、竹村優里佳氏(Yurica Design and Architecture)が共同で担当。
グループの竹村氏は、「今回の万博では、地域資源にフォーカスし、自らの身の回りにあるものの価値に気づくことができる万博になればいいと考える。石の持つ自然の迫力と400年前に切り出した人間の力を五感で感じてほしい」と万博への思いを語る。
ポップアップステージ(東内)/北東工区A 長村組 Pop-up Stage (East)
大屋根リング内側の光の広場に位置するポップアップステージ(東内)は、屋根付きのイベント広場となる。ステージと観覧スペースの整備の他、頭上にコンプレッションリングを設置する。コンプレッションリングの内側からは霧が出るようになっており、雲のようになってステージと観客席を一体的に覆う。
地面にはウッドデッキを施工。その他、倉庫や楽屋として使用される木造小屋を3棟据え付ける。コンプレッションリングは、4本の鉄骨柱と8本のテンションロッドで支え、霧の配管を取り付ける。部材は細く長いため、現場で丁寧に溶接しながら組み立てた。
工事に当たって現場所長の山本𠮷信氏は「軽く繊細な建物で、現場で資材をつり上げ組み立てるのに苦労した」と難しかったポイントを挙げる。4本の柱も内側に倒れ込むような構造体になっており、高い技術力が求められる。
さらに水道も電気も通っていない中での作業。給水所でタンクに水をため、電気は発電機を使用しながら工事を進めた。また一般的にコンクリートで造られることが多い基礎に、鉄骨が採用されているのも軟弱地盤で行われる万博工事の特徴の一つ。会場内の全て建築工事が新築で、資材や人員の数など工事規模の大きさもこれまで経験したことがない。「建築に携わって40年以上になるが、初めてのことばかりだった」
何万人・何千台という作業員や搬入車両が整備会場を出入りする中、「PW北東工区の統括施工者による適切な交通整理などがあって、円滑に工事が進捗できた」と謝意を表明。その上で「国家プロジェクトに携わることができ、非常に貴重な体験になった」と振り返り、「この場所で多くの人がにぎわっているのを見るのが楽しみだ」と期待を込める。
工事概要
設計者 KIRI ARCHITECTS 桐 圭佑 / Designed by KIRI Keisuke, KIRI ARCHITECTS
施工者 長村組
規模 鉄骨造・木造平屋118平方b
工期 2023年11月2日〜25年1月31日
休憩所3/北東工区A シマ Resting Area 3
静けさの森へと続く休憩所3には、6棟のユニークな建築物と樹木が立ち並ぶ。頭上に広がる樹冠と幹に建築物の柱や壁、屋根が寄り添うことで心地よい半屋外空間が生まれる。敷地内には休憩所だけではなく、トイレや応急手当て所、案内所がある他、大屋根リング内で使用されるネットワークの中継基地も設置されており、各棟によって用途が異なる造りとなっている。
1月上旬での進捗率は79%。4棟の工事は完了し、残り2棟の建て方や内装工事、周りの植栽を進めている。「大屋根リングの中心部に建設場所があり、周辺にはたくさんのパビリオンが立ち並んでいるため、搬入などの道が狭く苦労した」と統括所長の牧野恒司氏は話す。当初は西から半時計周りで施工する予定だったが、作業通路を確保するために南から建て逃げする形で施工を実施。他パビリオンの所長とも調整を行った。
さらに、若手建築家の意向を踏まえた上で「屋根からの雨水のしまいや子供が触ってけがをしないかなどを考慮し、利用者の目線に置き換えて施工を進めた」と現場所長のア口雄平氏は工夫した点を語る。
休憩所3は建物の色合いがとても鮮やかで、老若男女問わず誰もが楽しめる場所となっている。「ここで一休みしながら自然に触れ、カラフルな建物を見て楽しんでほしい」と牧野氏は思いを表す。さらに、ア口氏は「訪れる方が笑顔になれるものをつくれるよう、最後までやり遂げていく」と完成に向けての意気込みを述べた。
工事概要
設計者 山田 紗子 | 一級建築士事務所合同会社山田紗子建築設計事務所 / Designed by YAMADA Suzuko, suzuko yamada architects
施工者 シマ
規模 計6棟 木造および鉄骨造、平屋および2階建て、合計延べ床面積568平方b
工期 2024年1月12日〜2025年2月28日
トイレ8/南東工区A 藤井工業 Restroom 8
大屋根リング内のテーマ館エリアを抜けた場所にあるウォータープラザには、斎藤信吾建築設計事務所とAteliers Mumu Tashiroが手掛けるトイレ8が設置される。「こころとからだの性の多様性」に呼応し、さまざまな国籍や宗教に配慮した。
14棟からなるトイレ8は鉄筋コンクリート基礎で、背が高い2棟が鉄骨造、他の12棟が木造。各棟には1室または複数の個室があり、主に半円の形となっている。全ての棟に容易な組み立て、解体ができる構造・工法を採用しており、会期終了後には移設して再利用できる仕組み。換気設備を設置せず、空気の流れで自然換気をするのが特徴だ。
工事について現場の担当者は「普段は木造の施工をしないので不慣れだったが、設計者との会話を重ね、一つのチームとして無事完成させることができた」と振り返り、「万博に携われたことはとても誇りに思う」と話す。
内装には、タカラスタンダードのホーロー内装材「エマウォールインテリアタイプ」を採用。ホーローの表面はガラス質で汚れにくく、臭いの原因となる汚れやカビをシャットアウトし、快適で清潔な状態を保つことができる。
工事概要
設計者 斎藤 信吾+根本 友樹+田代 夢々 | 斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro / Designed by SAITO Shingo, SHINGO SAITO ARCHITECTS
施工者 藤井工業
規模 木造一部鉄骨造平屋56平方b
工期 2024年3月15日〜12月20日
会場の西ゲートゾーンに位置するグリーンワールド(GW)工区内に設置されるギャラリーでは、アートやファッションなどの催事や展示会、フォーラムを開催する。屋外イベント広場や未来の都市パビリオンなどがあり、にぎわいが期待されるエリアだ。
施設の大屋根には、廃棄食材や食品残さから作られた板状のベジタブルコンクリートを用いて暮らしの循環における廃棄物から“匂いある建築”を創出する。294本のユニットを交互に並べてポリカ板で覆い、日差しを妨げない造りとなる。側面には、地面と大屋根をつなぐツタを配置し、植物が屋根に向かって伸びている様子を表す。
ギャラリーの展示空間としては、二つの異なるサイズからなる内部空間と、大屋根の半屋外空間があり、その内外をつなぎながら多様なアート空間が展開される。
設計者のこだわりが感じられる施設の施工について担当者は「イレギュラーで個性のある建物を一から造っていくのはとても難しいが刺激になる」と話す。
ベジタブルコンクリートは、捨てられた規格外の野菜を熱圧縮成形し素材化する技術を持つfabula(ファーブラ)が製造。ベジタブルコンクリートの原料には、食品メーカーの明治がチョコレートの製造過程で取り除かれるカカオハスクを提供した。
工事概要
設計者 金野 千恵 | teco / Designed by KONNO Chie, teco inc.
施工者 藤井工業
規模 鉄骨造平屋658平方b
工期 2023年11月17日〜25年2月28日
◆バックナンバー