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津波から県土を守る 〜静岡県・沿岸21市町の取り組み〜

建通新聞静岡版 2011/7/25掲載

 巨大な地震動と津波がまちを襲い、多くの命・財産が失われた東日本大震災。地震対策の先進県として、さまざまな対策に取り組んできた静岡県内でも、県民の危機感が高まっている。県は、現在の津波対策をソフト・ハードの両面で総点検し、必要な対策を講じるため2011年4月に「県津波対策検討会議」(会長・小林佐登志県危機管理監)を立ち上げたほか、沿岸に接する21市町と例年7月に実施している津波避難訓練を前倒しして5月に実施し、課題への対策を打ち出すなど、対応に取り組んでいる。
そこで、主にソフト面の対策を検討している県の小林佐登志危機管理監と、ハード面の取り組みを統括する県交通基盤部の岩田良明理事に今後の県の取り組みの方向などについて聞いた。
また、沿岸21市町に対して、津波対策に関する独自調査を行った。


小林佐登志


―県として今後どのような対策を講じていくのか。
4月に県津波対策検討会議を設置し、ハードとソフトの両面の対策の検討を沿岸の市町と共に開始するとともに、例年7月の津波避難訓練を5月に前倒しして実施した。
避難訓練では、避難路の安全性や避難地の確保、避難施設に5分以内に到達できないことなどが課題として分かった。

また、ハード面では、東海地震を想定して防波堤・防潮堤や陸閘(こう)、水門などを長い期間かけて整備してきたため、対策が必要な海岸の約9割で事業が完了しているが、それでも港や河口などで約1割の対策が残されており、早急な対応が必要になっている。
そこで、まず、急傾斜地や水門への緊急避難階段や、県立高校への屋外階段の整備、社会福祉施設への自家発電機整備助成金などを6月補正予算に計上した。
さらに、国の中央防災会議が、東海・東南海・南海の三つの地震が連動して発生することを想定した検討を行い、揺れの大きさや津波の高さ、被害想定などを今秋にまとめる予定のため、これを踏まえて、現在の県の第3次被害想定を見直す。

【まず第3次被害想定に基づく取り組みを】

三陸で高さ15bの津波があったからと言って、県内の海岸線すべてに15bの津波を想定した対策を実施することは費用も含め現実的ではない。県としてはまず、現在の第3次被害想定の中で、対応できていない対策を着実に進め、3連動地震の新たな想定に備えることが重要だと考えている。  例えば、伊豆半島の一部では、「観光資源としての眺望」が重視されているため、予想津波高よりも低い防潮堤しか整備できていない区域や、水門が整備できない区域がある。防潮堤がなく完全に無防備な地区さえあるのが実情だ。「安全で美しい海」を県内外にアピールするためにも、最低限の津波対策を進める必要がある。

【東日本大震災を「自らの問題」に】

―5月の訓練では、さらにどのような課題が判明したのか。
緊急津波避難訓練では、県民が「自分の問題」として津波対策を考えたことが最大の成果だったのではないか。津波の高さや浸水する区域などは地域によって違う。当然、避難の経路や場所も地域ごとに違うので、地域の住民がそれをきちんと認識すれば被害を最小限に抑えることができる。
地元の市町には、地域の住民が課題ととらえたことをどのように解決するか、ぜひ考えてほしいし、今回の震災はその大きなきっかけとなるはずだ。地域の住民と地元市町が話し合い、「自らの命を守るために何が必要か」をまとめ、それを県が支援することで、ソフト・ハード両面の対策を効果的・効率的に進めていくことができる。

【地元建設業の果たす役割増す】

―建設業界にどのようなことを期待するのか。
地域の実情に応じたきめ細かな防災対策を進めるためには、地域の実情や防災施設の状況を把握している地元の建設業者の協力が欠かせない。今ある施設を活用しながら、足りない部分をどのように補っていくのかを考えなければならないからだ。
例えば、市街化の進んだ区域はコンクリートで覆われているため、雨が浸透せず水があふれてしまう個所がある。既存の施設を改良して水の流れを変え、内水のオーバーフローを防ぐような取り組みが考えられる。建設業に携わる皆さんであれば、地域のこうした課題に適切な対応を提案することができるだろう。
防災対策に関するハード事業については、県が単独事業で補助金を用意している。大規模地震対策等総合支援事業費補助金として、最大で事業費の2分の1を補助する。地域の住民や市町と相談しながら、建設業界から活用を働き掛けてほしいと思う。
震災だけでなく、自然災害の復旧でも「いざ」という時に人や資機材を投入して実際の活動を展開しているのは地元の建設業の皆さんだ。地域で助け合う仕組みを構築するため県はいま、地域の自主防災組織に建設業の事業所と防災協定を結ぶよう呼び掛けている。


岩田良明


―東日本大震災を受けたハード面の対策は。
静岡県の海岸線延長は約505`、このうち津波対策が必要な海岸線の延長(要防護延長)が279`ある。これまでに約249`の施設整備を完了、約25`の対策を進めており、整備率は89.4%となっている。河川については、津波対策が必要な38河川のうち整備済みが18河川で整備率は47.3%にとどまっているが、勝間田川の河口への水門建設など4河川で対策を展開している。
県は現在、ハード面の緊急点検として▽海岸・港湾関連津波対策施設の連続性・高さ・耐震性・背後地の状況、水門施設の操作状況▽避難路や緊急輸送路などの確保のための津波浸水想定区域内の道路・避難階段などの高さ・位置・耐久性―などを目視や施設台帳で確認する作業を進めている。
東日本大震災の津波では、津波が防波堤や堤防を乗り越え街を破壊した。社会資本整備を担う技術者には非常にショックだった。これまでの設計では、津波が堤防などを乗り越えることを想定していないため、堤防の強度、特に背後部分の強度を危惧(きぐ)している。

【避難階段設置などで補正予算】

―施設の点検や緊急津波避難訓練などの結果を踏まえた取り組みは。
高い場所に逃げるための当面の対策として、水門や港湾施設、急傾斜地などに避難階段を設置する予算を6月補正で確保したほか、馬込川の堤防かさ上げ対策を前倒しして2011年度末までに完成させることにした。
また、国土交通省が津波のエネルギーや海岸堤防の整備の在り方などについて検討を進めているが、結論が出るまでの対策として堤防などの強度を確保することが必要だろう。津波が堤防を乗り越えた際の背後地の減災対策について、例えば防災公園としての高台の確保などソフト面と併せて検討することも大切と考えている。津波被害を防ぐための対策では、背後地が低く堤防の高さと差がある場所で、用地を取得して堤防に腹付けするといった対応も一つの手法だ。

【3次被害想定を見直し、優先度に基づき対策を展開】

―中長期的な取り組みとして考えられるのは。
ぜい弱な堤防の補強など「やれることをスピーディーに対応する」一方、構造物の設計基準の見直しなど学術的な見解が明確になった段階で、津波対策施設を再検証する。
ただし、東日本大震災のような「1000年に1度の規模」を前提したハード面の整備をすべて実施することは、コストや時間を考えれば不可能だろう。「大規模な住宅団地がある」「大きな工場がある」といった背後地の利用を考慮し、人や財産が集中する地域で津波対策を優先するなどの対応が現実的だ。
県議会6月定例会では、今後施工する道路事業を対象に「平面構造の計画を高架または盛土に変更し、道路を第二の堤防にするようなことを考えられないか」との提案があった。盛土による地域の分断や高架によるコストの増加、周辺道路とのアクセスの悪化などが課題となるが、地域の合意などを前提に対策の一つとして検討してみたい。
また、今回の震災では、復旧・復興の観点から道路の役割があらためて注目されている。津波から逃れることができても、道路が被災して地域が分断されてしまっては、住民の命や地域の経済活動を守ることができない。「ものづくり県」である静岡県が東海地震や3連動地震で大きな被害を受ければ、日本の経済活動に与える影響は甚大になる。もちろん、津波以前の問題として、地震で倒壊しない建物づくりも必要だ。
そういった意味で、まず、県民や事業者がそれぞれ建物の耐震対策などを進められるよう支援するとともに、県が市町と連携して緊急輸送路や避難路の耐震対策、それらの代替路の確保などを着実に進めることが求められるだろう。
さらに、3連動地震の被害想定などがまとまり、県が現在の第3次被害想定を見直すことになれば、堤防の強化や嵩上げが必要になることが想定される。事業の優先度に応じた取り組みを着実に進めるとともに、国に対して必要な予算の確保など支援を求めていく。
われわれは「県民に安全・安心を提供する」という極めて大きな責任を負っている。そのことを自覚し、多くの課題を確実にクリアしていかなければならない。

避難ビルや標識・案内板の不足が明確に 沿岸21市町に津波対策緊急アンケート 

 避難ビルや避難階段、標識・案内板などが不足し、ほぼすべての市町が国による東海・東南海・南海の3連動地震の想定やこれを踏まえた県の第4次被害想定の策定・公表、ソフト・ハード両面の対策を進めるための財政支援を求めている―。本紙が県内の沿岸21市町を対象に実施した津波対策に関する緊急アンケート調査の結果から、地震対策先進県としてさまざまな対策に取り組んできた静岡県内での課題や、それに対応するための市町の要望が明らかになった。

静岡県内21市町緊急アンケートの結果(建通新聞調べ)

 アンケートは、県内の海岸線に接する21市町を対象に6月下旬に実施。@東日本大震災後の庁内組織などの設置の有無A新たに設置した庁内組織などでの取り組み内容B津波対策の土木施設などの市町による緊急点検の実施状況C点検により判明した施設の課題D5月下旬に県内各地で行われた緊急津波避難訓練で判明したソフト面の課題Eソフト・ハード両面の課題を踏まえた対策の方向F国や県に対する要望―を文書で確認した。

 庁内組織については、静岡市が緊急津波対策室、浜松市が津波対策プロジェクト会議を設置するなど8市が対応していた。
これらの組織で、津波避難ビルの追加指定や誘導サイン・海抜表示の整備、ソフト・ハード両面の津波対策の総点検―などを検討、実施している。

ぼう僧川水門

【土木施設の点検は5市3町が実施】

土木施設などの点検については、浜松市や伊東市、伊豆市、焼津市など5市3町が実施。その結果、▽津波避難施設の不足▽ブロック塀や家屋の倒壊による避難路の確保▽避難に有効な急傾斜地の避難場所としての整備▽常時閉門が困難な陸閘(こう)や水門などの存在▽避難路として有効な遊歩道などの荒廃▽避難ビルの屋上階段の手すり未設置―などが課題として分かった。
また、静岡県と沿岸の21市町は、例年7月に行っていた緊急津波避難訓練を5月下旬に前倒しして実施。行政関係者や地元住民ら約84000人が参加し、避難場所や避難ルートの確認などを実践した。
この結果、ソフト面の課題として挙がったのが「津波避難ビルの不足」「津波避難ビルの空白域の対策」「津波避難ビルや避難階段の標識板・案内板の不足」「(地震発生から津波到達まで5〜10分とされる東海地震の)高台避難への困難さ」「避難場所の避難者数に対応した広さの確保」「避難場所・経路での階段・昇降路などの不足」「高齢者など要援護者の避難方法・誘導」だ。
「行政への依存度が高く、自助・共助の認識の不足」「地震後すぐに避難するという意識の低さ」を指摘する自治体もあった。

【7市1町が補正予算で対応】
こうしたソフト・ハード両面の課題を踏まえ、静岡市や富士市、焼津市、牧之原市など7市1町が、補正予算を措置。限られた財源の中で、▽津波避難ビルの新たな指定▽津波避難ビルの屋上階段への手すりの設置▽津波避難ビルの案内板の設置▽市営住宅への避難階段の設置▽自主防災組織向けの補助金の増額―などに早急に取り組む姿勢を打ち出した。

【被害想定や防災計画の早期策定、財政支援求める声】
さらに、中長期的な安全・安心の確保には、国や県の支援が不可欠との認識で一致。具体策として、「国(中央防災会議)による3連動地震の被害想定や防災基本計画の早期策定」「見直しの過程で得られた科学的知見の速やかな公表」「3連動地震に対応する防潮堤・水門の施設」「津波対策のソフト・ハード両面に対する補助の拡充」「避難施設や高台の整備に関する補助率の嵩上げ」「設置済みの陸閘施設の地震計連動化」などを求めている。また、被災後の復旧支援などを円滑に進めるための「道路網の整備」の要望もあった。

東部
伊賀市役所

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