分譲マンションは、全国で600万戸を超え、近畿圏でも130万戸を超えるストックがあるといわれる。住民の暮らしに直結するという必要性を考えてみても、大規模修繕工事や管理規約改正などマンションを取り巻くハード・ソフト両面の事業が、今後もさらに重要度を増していくと考えられる。しかし、真の意味で「マンションリニューアルの専門家」と呼べる人たちはどれほどいるだろうか。
関西を中心にマンション改修専門のコンサルタントとして活動する3人に、マンション改修コンサルタント業務の問題点や今後の展開について話を聞いた。
■マンションの大規模修繕工事の設計コンサルタントとして感じている課題は
マンションの維持管理や大規模修繕工事のコンサルタントは一過性の仕事ではなく、長期にわたり管理組合を支援することになる。新築工事の激減で改修市場に参入してきた者はこうした視点に欠け、一過性の仕事の確保だけに終始している傾向が懸念される。長期的視野に立った維持管理手法の確立が求められており、維持管理分野の知識や技術の専門性を高めながらソフト面まで専門領域を広げることが必要だ
■改修コンサルタント業界の「ダンピング受注」への対策は
ダンピング受注は業界とっても管理組合にとっても良くない。その結果、工事監理で現場に来ていないのに来ていたことにするなど、信用失墜につながるケースもあると聞く。設計コンサルタントの選定過程では、ヒアリング時間が短く業務内容の質よりも結果的に金額交渉に終始することが多いのも問題だが、管理組合に対し誠意を持って正しい情報を発信していくことが管理組合を正しい判断に導くことにつながる。業務の質を落とすことなく、適正な価格を提示していきたい
■改修設計ならではの技術力やコミュニケーション能力などについて問題点はありますか
改修工事では、単なる建築技術よりも、ソフト面の住民対応の技術が7割のウエートを占めると思う。にもかかわらず、中には分譲マンションの知識や改修技術に精通した技術者が配置されず、居住者とのコミュニケーション能力にも不慣れで問題になるケースは多い。どれも机上で一朝一夕に習得できるものではなく、新たに改修市場に参入しようという者は謙虚に学び、現場での経験を積んでほしい
■改修コンサルタントとしての今後の展開は
建物の損傷劣化や機能上の弱点を見抜く考察力、実際の施工を十分熟知した設計書の作成や適切な工事監理を行う能力などが改修設計に必要なスキルは、建築士なら誰でもできるわけではなく、一貫した改修技術についての実践に裏付けられた豊富な経験と知識が求められる。私たちも常に社会におけるマンションとその居住者の本当の意味での利益を追求することができる包括的な視点と、技術者としてのプライドを持って業務に携わりたい
■マンションの大規模修繕工事の設計コンサルタントとして感じている課題は
十数年に1回という工事を無事完成させるまでのスケジュール作成は、経験やノウハウが増えてきた私たちの見せ場でもある。ただ、コンサルタントの価値を認めてくれる管理組合は増えているが、コンサルタントに何をしてもらうかという共通認識はまだ少ない。今はコンサルタントの比較の仕方が『値段』という狭い範囲になっている傾向にあるのは問題。コンサルタントはそれぞれの業務の範囲や特徴という『土俵』が違うので、何を頼むかによって値段が違うのは当然なのだが、そこが理解されていない
■改修コンサルタント業界の「ダンピング受注」への対策は
ダンピング的な設計監理業務に対しては非常に苦労している。誠意を持って対応したとしても金額の高さで書類選考の段階で落とされるケースがある。コンサルタントを選ぶコンサルタントがいればというのは管理組合の本音だと思うが、私たちコンサルタントが長い目で見て粘り強くやらないといけないし、規範を示していく必要がある。管理組合にはコンサルタント選定の常識をセミナーなどで広めていきたい。良いコンサル選んで良い工事業者を選ぶ、それができればもう工事は半分終わったと感じたと言ってくれた管理組合の理事長もいたが、こうした考えを広めたい
■改修設計ならではの技術力やコミュニケーション能力などについて問題点はありますか
コンサルタント側のレベルアップは長年の課題。マンションの大規模修繕では建築士としての設計と監理業務より、管理組合と一緒に企画を進め、調整することがとても大切。こうしたことを新規で改修設計に参入したいという人たちにレクチャーすることも必要になっていると感じている。意欲がある人をうまく業界に取り込んでいかないといけないと思う
■改修コンサルタントとしての今後の展開は
改修コンサルタント同士の横のつながりをそろそろ考えてもいい。大規模修繕のコンサルタントとしての共通認識を深めないと、レベルは下がる、値段は下がる、意識も下がるではどうしようもない。ただ、もっと良い業務をしたいというのが根本にはあるので、前向きに考えたい
■マンションの大規模修繕工事の設計コンサルタントとして感じている課題は
ハード面に関連する建築基準法などの法律の改正、各自治体の条例の制定などのほか、技術の発展を踏まえ、会社として知識を得る努力をし、その知識が社員全員に行き渡るようにしておかないと時代の変化に合わせた改修提案ができなくなっている。ソフト面の相談も増えており、例えば国土交通省の標準管理規約と各マンションの管理規約の違いや問題点などについてアドバイスをしっかりできるかどうかも必要だ。これらに対応するための勉強を長期的にしていくべきだと思うが、そうしたコンサルタントはそんなに多くないかもしれない
■改修コンサルタント業界の「ダンピング受注」への対策は
競争の中で仕事を取ろうという一つの考え方で金額が安くなっているのは事実だ。管理組合には金額だけで選ばず、組織力や技術力などを合わせて評価することや、ほかのマンションの意見を聞くなど、総合的に判断してコンサルタントを選んでほしい
■改修設計ならではの技術力やコミュニケーション能力などについて問題点はありますか
リニューアル分野に対し継続的に取り組む体制を社内に作り、いかに経験を積むかに尽きる。単発的な仕事では良い結果が出ないし、ゼネコンの余剰人員や新築設計事務所の定年者を充てるというだけでは安易。リニューアルに対する意識の高い20代、30代の若い人を育成するのも大切だ。リニューアル関連の仕事が増えている割にはまだまだ人材不足であり、優秀な人材の獲得についての努力が各企業とも必要ではないかと思う
■改修コンサルタントとしての今後の展開は
改修の経験を積んだコンサルタントがマンションの新築時の設計や管理組合の立ち上げ時など初期段階からアドバイスできれば、10年、20年先に起こりうるマンション問題を早々に解消できるのではないかと思っている。デベロッパーや設計事務所、管理会社と組み、ハード、ソフト両面でさまざまな管理組合やマンションを見て、問題の解決に取り組んできたノウハウをフィードバックする。今でも新築後数年のマンションとの顧問契約もあり、それをもう一歩進めていければと思う