「政治を動かすのは「民意」しかない。ダブル選挙は私の政治手法の集大成だ」。橋下徹氏は、昨年10月26日、最後の定例記者会見を行い、「民」の支持に自信を見せた。結果はご承知の通り、知事から市長へと異例の転身を実現し、知事にも同志を得た。この『維新』は大阪の明日を切り開くものなのか。4年足らずの間に大阪府がどう変わったのかを検証し、今後、大阪市を含めた大阪がどの方向に行くのか見通したい。
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ハシモト流でどう変わった? どう変わる?
2012/1/1建通新聞大阪掲載
財政再建の名のもとに 建設費がピーク時の3割未満
2008年2月に知事としてまず手を付けたのが財政再建。就任の記者会見で財政非常事態宣言を出し、6月には従前の行財政計画(2011年度まで)に上乗せした改革を進め、10年度に赤字構造から脱却することを目指す「大阪府行財政改革プログラム(案)」を作成。建設事業はこれまで以上に重点化・資産(ストック)を有効活用するとした。さらに、予算確定後の切り詰めや、低入札により、就任した08年度の決算で、建設事業費は2,082億円にまで萎んだ。ピーク時の1995年度の決算(7,328億円)に比べると3割にも満たない規模となってしまった。その後も建設費の切り詰めは続き、11年度の当初予算でも2,251億円にとどまっている。
「橋下劇場」の始まり
2008年度大阪府本格予算編成で、改革プロジェクトチームがまとめた1,100億円の削減試案について、橋下知事と府下43市町村長との意見交換会が08年4月17日に開かれた。これが、「橋下劇場」の始まりだった。
「府だけが財政再建しても本末転倒」など、反対意見が集中。「府内の道路は5年で穴ぼこだらけ、護岸はさびに覆われ、高校の屋根は落ちる」と公共事業停滞への不安の声も多かった。
しかし、こんなある種の正論≠焉A最後の橋下知事のあいさつで吹き飛んだ。
「貴重なご意見をいただいた」と話し始めたが、「今までと同じスピードでやっていては先がない。改革の期は今しかない」と涙声で反論する知事の姿は全国に報道され、「橋下が正しい」とする世論≠ェ形成されていった。
当時の市長会会長が、倉田薫前池田市長だったことはまさしく因縁だ。
道路事業は凍結から廃止へ
橋下前知事の財政再建でまず、大きな影響が出たのが道路建設。
08年度に大きく予算が削られたことを受け、実施中の主要な道路・街路事業のうち17カ所を一時休止とした。休止にならないまでも、事業費投入の削減により「ペースダウン」となった箇所は29カ所に上った。
既存道路の渋滞緩和のために事業化されたバイパス計画や、ボトルネック踏切解消のための立体交差、狭あいで危険な道路の拡幅など、地域の重要課題を解消するための「地域密着」道路計画が数多く休止やペースダウンとなり、地域の安全性・利便性確保は大きく後退した。
さらに、昨年3月には「大阪府都市計画(道路)見直しの基本方針」を策定。これまでに合計9路線の廃止を決定している。
都市計画公園の見直し作業にも着手。下水道事業も新規の建設事業は凍結されている。
大戸川ダム・槇尾川ダム中止
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「ダム建設はやりたくない」と公言した橋下前知事がまず手を付けたのは大戸川ダム(大津市)。「現段階で河川整備計画に位置付ける必要はない」と、関係府県と連携し、国に要望。中止への流れをつくった。
象徴となったのは、槇尾川ダム(和泉市)。すでに本体工事に入っているにもかかわらず、昨年2月にダム建設中止を決定した。
「河川整備委員会の意見を聞く」として、長期の審議を経ての決断だが、委員会の意見は継続と中止の支持が半々。結局は両論併記で意見書提出となった。委員会で意見をまとめられなかった責任を取って委員長は辞任。委員数人も委員会を退いた。
結局は、「知事の判断」だが、「結論ありき」ではなかったかという声も聞こえる。
咲洲庁舎(WTC)全面移転頓挫
橋下前知事唯一の誤算ともいえるのが、咲洲庁舎(WTC)全面移転計画だ。要因は昨年3月11日に発生した東日本大震災。震源地から遠く離れた咲洲庁舎もエレベーターなどに大きなダメージを受けた。東南海・南海地震への備えが急務の大阪府の庁舎(防災拠点含む)として「本当に使えるのか?」という声が沸き上がった。
知事は急きょ専門家会議を設置。咲洲庁舎の安全性検討を開始した。学識経験者は、「咲洲庁舎は、地盤に対して高さが最悪の組み合わせ。地震時の揺れが大きく、防災拠点として使える建物ではない」などと指摘。橋下前知事は、これを受けて「咲洲への庁舎全面移転は断念する」方針を決定した。
公共事業縮小は民意なのか?
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橋下前知事の4年足らずで大阪府の公共事業は、以前にも増して縮小した。建設事業の受注競争は激化の一途。2010年度の工事入札では、平均落札率が76.19 %。全国の都道府県で最低だ。長年大阪府の公共事業を請け負ってきた優良な地元企業も限界を超え、廃業や府の事業からの撤退が相次いでいる。「こんな状況では、災害が起こった際、府に協力することができない」との声も上がっている。
安全・安心に大きな役割を果たしてきた地域建設業の崩壊。果たしてこれが民意なのだろうか。新たな公共事業が着手できないということは、地域の社会基盤がこれ以上良くならないということ。満足なインフラがない中で、果たして経済の成長や、生活の安心は得られるのだろうか。
橋下・松井のタッグで生まれるもの
期待が大きい広域インフラ整備
新知事に就任した松井一郎氏。大阪維新の会をつくった立役者だ。これまで、裏の推進役を務めてきたが、これからは表の顔となる。今後、橋下徹大阪市長とタッグを組み、府市連携の改革を進める。
「府市統合本部」を咲洲庁舎に設置。府と市の類似事業の仕分けを行い「大阪都」への道筋をつける。知事・市長選で示したマニフェストには、「大阪都構想」をシンボルとし、大阪の成長戦略を実現する大規模プロジェクトが盛り込まれている。
広域インフラの整備でまず注目されるのは淀川左岸線延伸部の事業化。橋下市長は知事時代、都市計画手続きに入らない平松邦夫前市長を批判。第二京阪道路と阪神高速湾岸線を結ぶ同線の重要性を強調していた。府市の思惑が一致した今、事業化への期待は高まる。
鉄道では、なにわ筋線。新大阪駅と関西国際空港を結ぶ同線の整備は橋下知事時代からの重要課題。線路を国が、駅舎を国と自治体などが整備する新たな事業制度を国に提案していた。国を動かすだけの力を発揮できるか。
市水道局は大阪広域水道事業団に統合か?
府市連携で最初のシンボル事業となりそうなのが大阪市水道局の大阪広域水道事業団への統合。橋下・平松時代の府市連携として協議を進めたが、最終段階で大阪市が離脱。ここから橋下・平松の対立軸が生まれた因縁の事業だ。
当初の大阪府案では、府市の水道事業統合により、柴島浄水場(大阪市東淀川区柴島1)のダウンサイジングが可能となり、約10haの施設用地売却、有効活用(再開発)ができるとした。
大阪広域水道事業団への統合が実現すれば、都心での大規模開発が見込める。
縮小から創出への期待
新大阪府知事・大阪市長を誕生させたのは、府民・市民の「現状打破」への期待だろう。手をこまねいていては停滞が続くだけの大阪経済。縮小だけでは成長への転換は不可能。二人の首長が融合することで生まれる、創出へのエナジーに期待したい。
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