東日本大震災では、2011年3月11日の発生直後から、メディアやインターネットを通じて膨大な量の映像や写真、被災者の証言が情報として流された。伝えられた情報量から見ても未曽有の大災害だった。
街を破壊し、田畑を飲み込む津波や、壊れた原子力発電所の映像に世界の目が釘付けになった。また、人命救助に全力を挙げる自衛隊や警察、消防に感動した。そして、「がんばろう日本」を合言葉に、苦難に耐える被災者と支援者の姿に世界が涙した。
しかし、インフラを緊急復旧させ、人命救助を支えた地域建設業のことは、多くは伝えられなかった。あるマスメディアは、「業者なのだから」と、あえてカメラを向けなかったという。
本書は、東日本大震災の渦中にあって、自ら被災しながらも緊急復旧に行動した地域建設業の記録である。
プレート境界型の巨大地震は、大津波を引き起こし、現代の日本社会が経験したことのない、広域的な大災害となった。大量のがれきを除く道路啓開など緊急復旧でも、重機や作業員の確保にはじまり、おびただしい遺体への対応や、燃料・食料不足対策など、建設業はさまざまな困難に直面した。
原発事故が起こった福島県内では、放射能汚染に対する労働安全衛生面での法令が未整備な状態の中で、経営者と従業員は厳しい決断を迫られた。屋内避難が指示された地区で行方不明者の捜索に協力するため、重機のキャビンを屋内とみなして建設業は出動した。そんな、こじつけのような判断をせざるを得ない現実があった。
日本が地震の多発期に入ったとされ、東海地震や東南海・南海地震、首都直下地震などの発生が懸念されるいま、本書が伝える内容は単なる記録にとどまらない意味を持つ。全国の建設業と行政機関にとって、これから発生する新たな災害への備えを考えていく上で、本書から学ぶべきことは多いはずだ。
仙台建設業協会の深松努副会長は本書の中で「全国の自治体は、被災した時に現在の業者の数で地域を守れるのかシミュレーションしてみるべきだ。そして、地域を守るために必要なものはなにかを考えておく必要がある」と述べる。
ここ10年以上にわたって地域建設業が衰退してきた中で、その言葉を重く受けとめなければならない。
ぎょうせい刊、2000円。全国の書店で販売。問い合わせ先はぎょうせい営業課 電話03-6892-6571。
★書籍内容
はじめに
第T部 地域建設業の現場からの証言
1 被災地で自立救済に乗り出した岩手県建設業
2 混乱の中で自ら動いた宮城県建設業
3 原発危機、津波被災と戦う福島県建設業
4 協定に基づく巡回と応急復旧−青森県建設業
5 現場の第一線に真っ先に−茨城県建設業
6 砂の沼との闘い−千葉県浦安市の建設業
7 行政の枠にとらわれず支援を展開−東北地方整備局
第U部 支援に動いた地域建設業ネットワーク
1 経営する福祉施設に被災者受入れ−大場組(山形県)
2 北からの救助隊−北海道建設業協会の支援
3 緊急支援物資を輸送した建設トップランナー倶楽部
4 木材の回収を提言−中部森林開発研究会
5 市民団体と連携して救援物資を輸送−横浜建設業協会
6 排水ポンプ車で復旧を支援−TEC‐FORCEと大分県建設業
7 災害ボランティア活動に従事−日本青年会議所建設部会
8 東日本大震災における全国建設業協会の対応
第V部 建設復旧を歴史の教訓に刻む
1 未来志向で国際社会に誇れる復興再生を
−芝浦工業大学教授(前国土交通省事務次官) 谷口博昭
2 比較して初めてわかる日本の国土、地域に根づく建設業の役割
−国土技術研究センター理事長 大石久和
3 東日本大震災にどう対応するのか
−早稲田大学教授・元土木学会会長 濱田政則
4 被災地のスムーズな復旧・復興と将来の大震災への備え
−東京大学教授 目黒公郎
5 復旧現場における規制との闘い
−慶應義塾大学特任教授 米田雅子
6 大きな自然と厳しい自然災害、そして我々にできる4つの対策
−東京工業大学名誉教授・日本建築学会会長 和田章
7 東日本大震災の復興の課題と地域建設業の役割
資料編
編著者:米田雅子・地方建設記者の会
判型:A5判、204頁
定価:2,000円(税込)
発行日:平成24年1月20日
発行所:株式会社ぎょうせい