老朽化した浄水場など大規模施設の更新、首都直下地震や豪雨・渇水リスク増大への備え―。これらに適切に対応するため、東京都水道局は「東京水道施設整備マスタープラン」に基づく事業を開始した。環境負荷を低減するための総合的な施策を盛り込んだ「環境5か年計画2015―2019」も策定し、大規模浄水場更新時のエネルギー効率の高い代替浄水施設の整備や、給水所新設の際の引き入れ余剰圧力の有効活用、太陽光発電の導入拡大などにも取り組む方針を打ち出している。都民生活と首都東京の都市活動を支えている「東京水道」をより安全・安心に供給していくため、今後、どのように事業を展開するのか。吉田永局長に聞いた。
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――「東京水道施設整備マスタープラン」の策定から1年が経過した。現在の取り組み状況は。。
「マスタープランでは『安定給水の確保』『震災対策などの推進』『安全でおいしい水』の三つの主要施策を掲げている。安定給水の確保のうち、浄水場の更新については、更新期間中も安定給水を確保するため、代替浄水施設の整備として境浄水場の再構築や三郷浄水場の設計を進めており、境浄水場では関連工事に着手した。また、バックアップ機能を強化するため、導送水管の二重化・ネットワーク化として第二朝霞村山線や多摩南北幹線を整備している。給水所の新設・拡充として、江北給水所の新設工事や、和田堀給水所の拡充に向けて既存施設の撤去工事なども進めている」
「水道施設の耐震化では、震災時の被害を最小限にとどめ、都民への給水を可能な限り確保するため、村山上貯水池の堤体強化の調査・設計や練馬給水所配水池(2号池)の耐震補強工事などを実施している。また、管路の耐震化については、想定地震動や地盤の液状化危険度などを考慮した「水道管路の耐震継手化10カ年事業」を推進することで、13年度末時点で35%だった耐震継手率を毎年2%程度向上させ、24年度末に59%まで引き上げる。自家用発電設備の増強では、震災時にも電力を安定的に確保するため、三郷浄水場や上井草給水所での設計を進めている。大型台風や局地的な豪雨による水道施設の浸水被害も懸念されていることから、金町浄水場などで止水堰の設置といった対策を実施している」
「安全でおいしい水の供給としては、浄水場から送り出す安全でおいしい水をそのまま『お客さま』の蛇口まで届けるため、貯水槽水道の適正管理の推進や小中学校の水飲栓直結給水化モデル事業などに取り組んでいる」
「さらに、都民や道路管理者をはじめとする関係機関の一層の理解と協力を得るため、取り組む事業の内容を分かりやすくまとめたリーフレットを作成・配布したり、局内に設置した推進会議による進行管理を行うことで、それぞれの事業を着実に推進してきた。今後も引き続きマスタープランに基づく取り組みを着実に推し進めることで、施設の老朽化や震災対策などの課題に時機を逸することなく対処しつつ、さまざまなリスクや課題に柔軟かつ適宜適切に対応していく」
――施設整備に関する計画に加え、水道局では新たに「環境5か年計画2015―2019」を策定した。その狙いは。
「水道事業は、限りある資源である水を取水し、安全・安心に『お客さま』に届けるという地球環境と関わりの深い事業である一方、事業活動により都内電力使用量の1%、年間8億`hアワーという多量のエネルギーを消費している」
「こうした中、14年度に策定した都の長期ビジョンでは、政策指針として“スマートエネルギー都市の創造”を掲げるなど、エネルギー施策の重要性がより高まっている。また、都環境確保条例などに基づく温室効果ガス削減義務が15年度から強化されることにも的確に対応する必要がある」
「環境5か年計画は、これらの課題に的確に対応するため、ことし2月に改定した「東京水道エネルギー効率化10年プラン」を踏まえ、新たに計画期間を5年として策定した」
――主な取り組みの内容は。
「まず、再生可能エネルギーの導入を拡充していく。小水力発電の導入を給水所の新設時などに拡充し、地形の高低差による位置エネルギーや余剰圧力を有効活用する。太陽光発電は、水道施設や建屋屋上の設置スペース、費用対効果といった条件を総点検し、導入余地を洗い出している。今後、計画的に太陽光発電を導入し、19年度までに累計8000`h以上にする。さらに、ポンプ設備などの新設・更新時には、高効率照明の導入を拡大する。これらを通じて、局全体で15年度から19年度までに、00年度比5%相当のエネルギーを削減することを目指す」
「一方、引き続き局が保有する約2万fの水道水源林を保全管理し、緑豊かな水源の森づくりを行っていく。多摩川上流域には荒廃の進んだ森林が増えており、その影響が懸念されるため、ボランティア「多摩水源森林隊」の協力も得て民有林の保全にも取り組んでいく」
――将来を見据え、さまざまな事業を着実に進めなければならない一方、水道局でも契約不調が増えている。どのような対策を講じるのか。
「民間事業者との連携が重要だ。東京水道施設整備マスタープランに掲げる事業内容、つまり次世代に水道を引き継いでいくための施設整備を推進していくため、今後も多くの工事が必要になる。その一方で、東日本大震災の復興事業が本格化し、20年の東京オリンピック・パラリンピックに備えた都市基盤整備など建設需要が増大している」
「こうした中、水道局でも、工事を公表しても契約につながらない「入札不調」が多く発生している。各種の施策を着実に推進していくためには、当局事業に欠かせないパートナーとして民間事業者の協力が不可欠だ。このため、民間事業者の入札参加を促す、魅力ある環境を整備することが喫緊の課題となっている」
「入札不調を抑制するためには、事業環境の変化や民間事業者の声を踏まえながら、入札参加を促す環境整備を行う必要がある。積算基準については、大都市補正の配水管開削工事への適用や、配管材料の諸経費対象額の変更を14年10月に実施した。また、一般管理費等・現場管理費を算出するための率をことし4月に変更している」
「特記仕様書については、設計段階で想定した工種や数量などを具体的に明示して、現場条件に応じた設計変更ができるよう14年10月に改善した。また、ことし3月には公表の時点で工事概要と案内図に加えて特記仕様書を添付し、施工内容が伝わるようにした」
「この他、14年度には、それまで発注案件の公表期間を月曜から金曜日としていたものを『月曜〜翌月曜日』に拡大するとともに、入札参加希望可能な案件数を2件から『4件』に緩和するなど、入札に参加しやすい環境整備に取り組んできた」
「こうした契約制度の改善を粘り強く継続していくことで、マスタープランに基づく施設整備を確実に推進し、20年東京オリンピック・パラリンピック開催期間中も含め、将来にわたる安全でおいしい水の安定供給により、『世界一の都市・東京』の実現を支えながら、『お客さま』に喜ばれる水道を目指していきたいと考えている。
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