国土交通省は、一般会計への要求額を前年度比18.9%増の6兆9070億円とする2019年度当初予算の概算要求を発表した。公共事業関係費は19.1%増の国費6兆1736億円(事業費15兆3153億円)。頻発する災害への備えとして、国土強靱(きょうじん)化に向けた防災・減災に力を入れるとともに、経済成長に貢献するストック効果の高い社会資本整備を推進するため、公共事業予算の安定的、持続的な確保を目指す。こうした姿勢が色濃く打ち出されている国交省各局の要求内容を解説する。
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国土交通省2019年度「局別」概算要求のポイント
「公共事業予算の安定的、持続的な確保を」
【総合政策局】
インフラ分野への人工知能(AI)・ロボットなどの革新的技術の導入に8600万円を要求。AIの研究開発に必要な「教師データ」の整備とともに、投資家と開発資金に乏しいAI開発者をマッチングするコンペティションを実施し、AI市場を活性化する。
インフラの点検・診断、災害対応の担い手不足に対応するため、技術者の判断を支援するAIを開発する。ドローンなどの点検ロボットで得られた画像データと土木技術者による正しい判断を蓄積した教師データを整備するため、国交省が事務局を務める「AI等開発支援プラットフォーム」の運営費も盛り込む。
地方自治体と中小建設業にCIT施工のノウハウ、メリットを理解してもらう、先導的モデル事業には4300万円を要求。ICT施工の工種を拡大するため、技術基準を策定するための調査も行う。
約1500の企業、団体が参加するインフラメンテナンス国民会議を中心に、メンテナンス産業の育成に関する必要経費2600万円を要求した。自治体に効率的、効果的なメンテナンスをコーディネートする技術者派遣も行う。
【国土政策局】
公共事業関係費の要求額は前年度比20%増の849億円。自然災害に被災した公共土木施設の原形復旧・防災機能の強化に年度途中でも対応できる「災害対策等緊急事業推進費」に161億円、「離島振興事業」に481億円、「奄美群島振興開発事業」に203億円などを求める。
災害対策等緊急事業推進費は、洪水、豪雨、地震、津波、崖崩れで被災した公共土木施設の復旧などに対し、関係部局・地方自治体からの要求を受けて年度途中で配分できる。被災した公共土木施設の原形復旧・防災機能の強化などに充当する。
リニア中央新幹線の開業で形成されるスーパー・メガリージョンについて、その効果を広域的に波及させるため、地域間の対流促進の効果を調査する。調査費として2000万円を要求した。
【土地・建設産業局】
建設業の働き方改革の推進に1億2700万円を要求。建設業に時間外労働の上限規制が適用される2024年4月を待つことなく、適正な工期設定、施工のICT化などを普及させる。地籍整備に124億5500万円、所有者不明土地法の円滑な運用に9800万円も要求している。
働き方改革では、現場の週休2日や適正な工期設定に取り組む民間発注者に対し、専門家を派遣して契約図書の作成を支援する。民間工事におけるBIMの活用方策なども検討する。建設業許可、経営事項審査の電子申請化に向けた調査費も要求している。
建設業の女性活躍、社会保険加入の徹底・定着、建設リカレント教育の推進にも総額1億円を要求。政府全体で検討している外国人受け入れの拡大を巡っては、建設分野で前年度予算の約3倍となる2億4000万円を要求する。
地籍整備の推進では、地籍調査に117億2000万円を要求した他、地籍調査以外の民間測量成果を蓄積する「地籍整備プラットフォーム(仮称)」の本格導入に向けた実証実験などに7000万円を求める。所有者不明土地特措法の成立を受け、運用マニュアルの作成、地域福利増進事業の支援などに合計9800万円を新規で要求する。
【都市局】
市街地整備や国営公園の整備など、公共事業関係費は19%増の632億円を要求した。ICT技術をまちづくり分野に活用した「スマートシティ」を構築するため、モデル都市に対する支援事業を創設。都市公園の再編・集約で生じた敷地に保育所などを誘致する都市公園ストック再編事業も推進する。
人流、地図、店舗情報、防犯などのデータを人工知能(AI)で解析することで、移動の最適化を実現させるターミナル施設の再整備、災害時の円滑な誘導などを図るスマートシティを構築する。
モデル都市ごとに地方自治体、民間事業者でつくるコンソーシアムを組成してもらい、実証実験や実行計画の策定を支援する。
都市公園の再編・集約に生み出す跡地に保育所などの都市機能を整備する「都市公園ストック再編事業」も実施する。社会資本整備総合交付金、防災・安全交付金で、自治体の事業計画策定を支援する。国営公園の魅力を高めるため、観光拠点施設の整備などのハード対応にも力を入れる。20年度までに年間4800万人の入園目標を達成させる。
【水管理・国土保全局】
公共事業関係費の要求額は18%増の9933億円。西日本豪雨での浸水被害を踏まえ、再度災害を防止する治水対策に5149億円、土砂災害対策に957億円、地震・津波対策に511億円を要求する。ダム再生事業では、北上川上流ダム(岩手県)、藤原・奈良俣再編ダム(群馬県)、岩瀬ダム(宮崎県)に新規着手する。 公共事業関係費の内訳は▽治水8992億円▽海岸166億円▽俊水環境整備293億円▽下水道65億円―とする。
昨年の九州北部豪雨、2018年7月の西日本豪雨などで大規模な浸水被害が生じたことを踏まえ、治水安全度を抜本的に向上させる治水対策を重点的に実施する。河道掘削などで中小河川の流下能力を高める「中小河川緊急治水対策プロジェクト」も引き続き実施する。
土砂災害対策では、土砂・流木災害、土砂・洪水氾濫による災害を予防する砂防堰堤、遊砂地などを重点的に整備する。
河川事業にICT技術を積極的に活用する「i-Water2.0」では、簡易型河川監視カメラの現場実装、次世代型流量観測の導入、砂防関係施設の点検へのドローン活用などに取り組む。
【道路局】
道路局関係の要求額は前年度比19%増の2兆0577億円。直轄事業の維持修繕、補助事業の大規模修繕・更新の要求額はそれぞれ前年度予算額を26%上回っており、道路の老朽化対策に向けた経費を手厚く要求する。電線共同溝整備へのPFI導入を拡大するため、国債の設定期間を現在の最長15年から延長することを求める。
直轄事業の要求額は19%増の1兆8511億円で、改築その他1兆2654億円、維持修繕4658億円などの内訳。補助事業は21%増の1181億円、有料道路事業に24%増の175億円などを求めている。
道路の老朽化対策では、2018年度末までに橋梁・トンネルの定期点検が一巡することを踏まえ、予防保全対策を本格的に実施する。定期点検手法の見直し、将来的な維持管理・更新費の推計も行い、着実な予防保全に取り組む。
道路法改正を受け、国土交通大臣が物流上重要な道路輸送網として指定する「重要物流道路」には、財政的な支援の在り方を検討する。高速道路の「安全・安心計画(仮称)」を策定し、新技術を活用した暫定2車線対策など、高速道路の安全性・信頼性を高める。
無電柱化に向けては「無電柱化推進計画」に定めた目標1400`の達成に向け、地方自治体への低コスト手法の普及、地方版推進計画の策定を後押しする。直轄事業で導入されている電線共同溝整備へのPFIについては、国債の設定期間の延長を求める。
【住宅局】
要求額は前年度比20%増の2090億円。2019年10月の消費税率引き上げに伴う需要変動に対しては、前回の増税時に実施した、すまい給付金、省エネ・耐震化に対するポイント制度、住宅金融支援機構の金利優遇などの効果を検証。概算要求の時点では要求額を示さない「事項要求」とし、予算編成過程で結論を得る。
住宅・建築物の耐震改修を推進するため、耐震改修促進法で耐震診断を義務付けた建築物を重点的に支援する他、超高層建築物の長周期地震動対策を引き続き進める。大阪北部地震で被害を受けたブロック塀の安全性を確保するため、防災・安全交付金でブロック塀の除却・改修を支援する。
空き家対策では、空き家の除却や利活用に対する支援を強化する他、専門家と連携した相談体制の構築、空き家の発生を抑制するモデル的な取り組みを後押しする。
住宅・建築分野における生産性向上も支援する。民間事業者と連携し、BIM活用の手順や共有するモデルへの入力情報を整理する他、建築確認申請を電子化するためのシステム整備を支援する。
【鉄道局】
整備新幹線には755億円を要求した。北陸新幹線(金沢〜敦賀間)、九州新幹線(武雄温泉〜長崎官)の追加経費は事項要求とし、予算編成過程で要求額を確定させる。公共事業関係費には6%増の1075億円を要求している。
都市鉄道ネットワークを充実させるため、路線間の連絡線整備や相互直通、地下鉄の整備を推進する。なにわ筋線の整備に新規で調査費を要求。
大阪都心部を南北に縦貫する新線を整備し、関西国際空港や新大阪駅へのアクセスを向上させる。
鉄道駅のバリアフリー化では、2020年東京五輪の競技会場の周辺駅でエレベーターの増設、ホームドアの整備などを重点的に進める。首都直下地震や南海トラフ地震に備え、主要駅や橋梁の耐震補強を加速させる。河川に架設された鉄道橋梁の橋脚を補強し、激甚化する豪雨災害に備える。
【港湾局】
公共事業関係費の要求額は前年度比19%増の2911億円。内訳は、港湾整備事業の2781億円、港湾海岸事業の117億円、災害復旧事業の13億円となる。クルーズ船の受け入れ環境の整備には45%増の207億円を要求しており、官民が連携した国際クルーズ拠点の形成、受け入れ機能の高度化に取り組む。
港湾法に基づく「国際旅客船拠点形成港湾」に指定された横浜港、清水港、佐世保港、八代港、鹿児島港、本部港、平良港の7港を対象に、旅客ターミナルビルなどを官民連携で整備する。物流ターミナルでもクルーズ船を受け入れるため、係船柱、防舷材などの整備も進める。
国際コンテナ戦略港湾には902億円を要求。コンテナ船の大型化に対応したコンテナターミナルの整備の他、人工知能(AI)を活用したターミナルオペレーションの実証事業も行う。
新規の予算要求としては、洋上風力発電を促進するため、発電設備を設置する一般海域におけるエリア指定、海域の利用調整に関する調査費を盛り込んでいる。港湾機能や産業機能が集積し、高潮被害が大きい地域では、港湾の堤外地での施設整備を支援する新制度を設ける。
【航空局】
空港整備勘定の歳出額は前年度比2.7%減の4194億円を要求した。首都圏空港の機能強化では、羽田空港に655億円、成田空港に81億円の確保を目指す。一般空港の受け入れ環境整備には998億円を要求し、管制施設の耐震対策、CIQ(税関、出入国管理、県駅)施設の整備などを進める。
羽田空港では、2020年までに空港処理能力を約4万回拡大するため、飛行経路の見直しに必要な航空保安施設・誘導路、CIQ施設、駐機場、川崎市への連絡道路の整備などを進める。成田空港では、庁舎の耐震対策や航空保安施設の老朽化更新を行う。
一般空港は、那覇空港と福岡空港の滑走路増設事業を引き続き実施。この他の空港でも、管制施設の耐震化や液状化層の地盤改良による耐震化を実施する。空港経営の民営化では、これまでの民営化した空港で得られた意見・提案を踏まえ、民間事業者への運営委託手法を検討する。
【大臣官房官庁営繕部】
官庁営繕費の2019年度要求額は前年度比20%増の214億円。このうち、官庁施設の老朽化対策に72%増の79億円、防災拠点となる官庁施設の防災機能の強化に94億円を求めた。
官庁施設は、完成後30年以上を経過したものが4割を超え、大規模修繕や設備機器の更新が大幅に増えるため、計画的・効率的な維持管理、更新を推進する。外壁や屋上防水、設備の改修を計画的に進め、トータルコストを縮減する。
防災拠点となる官庁施設の耐震化、天井耐震対策、津波対策、首都直下地震発生時の電力確保なども推進。低層の官庁施設の原則木造化、その他の官庁施設の内装の木質化を図るとともに、直交集成板(CLT)の活用にも取り組む。
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