公共事業を担い、県土の安全を守る建設産業の活性化に向けて、入札制度の改善などさまざまな施策が行われている。県行政と建設業界がどのように連携して進めていくのか。2018年度にそれぞれ就任した、渡辺克己三重県県土整備部長と山野稔三重県建設業協会長に意見を交換してもらった。
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(2018/8/28)
【対談】魅力あふれる建設業へ
〜 新活性化プラン推進と災害対応強化 〜
渡辺 自然災害から県民の皆さまの安全・安心を確保すること、そして、県民生活や地域経済を支える社会基盤を整備することが、県土整備部の使命と考えています。職員一人一人が、社会資本の整備による成果を県民の皆さまに早期に届けるため、強い使命感を持って業務を進めます。このために組織力を最大限に発揮できるように、組織でスケジュールや段取りを共有して、常に進捗を確認しながら業務を進めます。
山野 長きにわたり建設業協会を引っ張ってこられた山下現名誉会長は、多くの取り組みにおいて功績を残されました。それらの取り組みをさらに進化させ、建設産業を活性化させ、質の高い社会資本を整備することが大切です。それとともに、企業活動を続けていくために適正な利潤が確保できる安定した建設業界にしたいと考えます。
渡辺 県財政が厳しい状況ではありますが、防災・減災の喫緊の課題に対応するため、公共事業については前年度比101%の予算を確保しました。直轄事業および国補公共事業につきましては、17年度内示額と同額とし、県単建設は交付金事業の計画に位置付けるなど国補公共へ振り替えることなどにより対前年度比93%に絞り込み、縮減した財源を県単維持に充当しました。県単維持は対前年度比122%とし、有利な起債を活用した舗装修繕、河川の流下能力向上のための堆積土砂撤去、住民からの要望の多い区画線の引き直し、法定点検などにより判明した修繕などに取り組みます。
山野 公共事業など安心・安全の確保などの予算を確保していただき感謝しております。ただ、建設業の経営状況は厳しく、災害対応など地域維持に必要な体力は限界にきています。そこで、工事発注に当たりまして、「工事量の平準化」のさらなる促進とともに、「現場着手前の準備期間の確保」について、ぜひご配慮をお願いしたい。また、「発注見通し」は受注機会の拡大に必要な情報ですので、これまで以上に早期の公表を願っております。
渡辺 三重県としましても工事量の平準化が重要であるとの認識で、債務負担行為や繰越制度を活用した工事契約や、余裕期間設定工事を実施しています。発注見通しについては、早期の公表を徹底するよう建設事務所等に指示をしたところです。また、2018年度から地域機関ごとに主要な事業の2年間の実施計画を公表しており、参考にしていただければと思います。
適正な入札契約制度へ
渡辺 新三重県建設産業活性化プラン(以下、活性化プラン)に沿った施策のうち、適正な利潤の確保に向けた施策として入札契約制度の改善に取り組んでおり、本年度は、低入札調査基準価格の失格基準の引き上げを行いました。また、予定価格の事後公表については、県土整備部では、土木一式工事における価格競争案件の半数程度を実施するなど、大幅に増やします。さらに、総合評価については、土木一式工事の適用下限価格を引き下げ、適用を拡大しています。
山野 活性化プランに基づく施策として、総合評価方式の拡大や、ダンピング対策としての予定価格の事後公表の取り組みを大きく前へ進めていただけるとのことで感謝しています。ただ、価格競争による入札では、依然として「くじ引き」が多く発生し、最低制限価格や低入札調査基準価格での落札が多いという現状もありますので、引き続き、入札制度の改正をお願いしたい。また、市町への品確法の普及につきましては、総合評価方式の拡大や予定価格の事後公表に加え、予定価格の算出や前金払い制度、中間前金払い制度などの浸透も十分ではないように思えますので、これらの制度の普及に向けて積極的な取り組みをお願いします。
渡辺 市町への品確法の普及に向けては、「中部ブロック発注者協議会三重県部会」の中に五つの地域のブロック分科会を設置して普及に努めています。その中で、本年度は施工時期の平準化、週休2日制の試行について市町と協議をしているところで、6月から7月に、ブロック分科会を建設事務所単位で10回開催し、品確法の適切な運用を要請するとともに、前金払いの限度額撤廃や中間前払い金の導入についても市町に要請しています。本年度は、朝日町、明和町で中間前金払い制度を採用するなど5市町で改正を行っていると聞いております。
週休2日制の試行
渡辺 2018年の6月29日に働き方改革関連法が成立し、5年後には建設業にも適用されることになりました。若い方が建設業に入職し、定着していくためには、週休2日制を広げていくことが不可欠と考えております。そこで2018年度は、土日完全週休2日制の試行工事を前年度に引き続き継続するとともに、段階的な方法として、月2回土日完全週休2日制の試行を行います。この方式は、土曜日を全て休日にするのではなくて、例えば、第2、4土曜日を休日にしてもらい、それ以上に現場を閉所した場合は経費の面で配慮させていただくものです。週休2日制に係る必要経費については、本年度、国と同様に改定し、適用していくことにしました。
山野 週休2日制に係る必要経費を改定し、適用していただけるということで感謝しています。また、月2回土日を休日とする段階的な方法も現状に照らし合わせていただいた方法としてありがたく思います。1点、現場の工期や生産性の向上を考えますと、現場閉所による休日ではなく、「変則勤務」による4週8休の取得も有効ではないかと考えていますので、検討をお願いしたい。
渡辺 大手の小売業では、従業員は交代で休み4週8休を確保しており、長時間労働の是正、所定内労働には有効な方法と考えます。いろいろな意見を聞きながら進めていきたい。
ICT活用工事
渡辺 県としてもICTの活用が生産性の向上、作業員の安全の確保につながるものと考え、2018年度から県発注工事においても本格的にICT活用工事の試行を実施します。試行に当たり、必要経費の計上や工事成績加点のインセンティブを付与することで、ICT活用工事の普及が進むよう取り組みます。また、2018年度は、国の支援事業を活用し、国や業界団体などで構成する支援協議会を9月ごろに立ち上げて取り組んでいきます。
山野 協会としてもICT活用工事を積極的に支援していく考えです。そこで、県工事の試行に当たり、国が発注するICT活用工事で実績がある企業の意見も参考にして進めていただきたい。また、受注者からの意見を聞いて、無理のない試行、次につながる試行となるよう共に取り組んでいきたいと考えています。協会としましても、一定規模のICT活用工事で生産性の向上が確実となるように、また、小規模工事でも適切に活用できるようにといった課題について、議論、検討する場を協会内に組織するよう準備を進めていますので、県が組織されます支援協議会ともども、意見交換の場になればと期待しております。
渡辺 三重県発注の工事におきましては、監督員を含めた発注者側も、また、県工事を主に受注されております企業側も知識、経験が不足されているかと思います。そうした協議の場で意見を交換しながら普及促進を図っていきたいと考えています。
担い手の育成・確保
渡辺 昨年度は、「建設業参入支援事業」により、求職者への集合研修・雇用型訓練や工業高校の生徒へのインターンシップなどを支援しました。本年度は、「建設業理解促進事業」を創設し、普通科高校から就職される生徒を対象に行う現場見学会やインターンシップを支援していきます。普通科の生徒にも建設業への理解を深めてもらうことで、入職後のミスマッチを解消し、定着につなげていきたい。また、既に建設業に従事されている方がスキルアップし、定着していただけるように、「建設業人材定着事業」により技能講習の受講などの支援を引き続き行います。
山野 建設業に興味を持つ人を増やすためには、建設業のイメージアップを図る取り組みが必要ですが、建設企業だけで行うのは難しく、県に支援をいただき感謝します。インターンシップや現場見学会では生徒ばかりでなく先生方や親御さんなど保護者の方にも建設業を正しく理解いただくことが重要だと実感しています。また、普通科高校の生徒が入職し、技術者を目指す場合には、資格の取得を支援するなど定着に向け努めていきます。
もう1点、当協会として、担い手の育成・確保のキーワードとして「若者」と「女性」を挙げており、会員企業の女性技術者や技術者を目指す女性の交流の場を企画し、準備を始めています。そこで可能であれば県の女性技術者にも参加願えればとも考えております。
渡辺 建設業、そして公務員においても、女性が活躍できる職場となることが大事です。協会の取り組みは女性技術者が働きやすい職場となるようそれぞれの立場で意見交換するいい機会だと思いますので、できる限り県の女性技術者も参加できるよう配慮したいと思います。
渡辺 2018年6月の大阪北部地震や、7月の西日本豪雨を見ておりますと、三重県においてもいつ大規模災害が発生してもおかしくない状況だと危機感を持っております。県としましては、事前に防災の準備が可能な台風に対しては、「三重県版タイムライン」を策定し、本年度から社会基盤対策部隊にも運用しています。
地震・津波災害や豪雨災害に際しての緊急対応や道路啓開には、建設業協会の組織力、機動力、技術力の協力が不可欠です。協会におかれましては、引き続き、災害対応訓練を実施していただき、防災対応力を高められることを期待しています。
山野 協会の災害対応として、情報伝達訓練を9月25日に、翌日の26日に伊勢市宮川左岸で第4回となる災害対応訓練を実施します。実際の大規模災害では、会員企業も被災者となり1企業では十分な対応が困難です。支部会員の企業を越えた共同作業による災害復旧の実動訓練に多くの会員企業が参加することで効果あるものにしたいと考えています。
渡辺 これまでの3回の訓練を見させていただき、実践に即した大変有意義な訓練であると思っています。特に支部を越えた、会員企業相互の支援体制の構築というところで、大変心強く思っております。
〈最後に〉
渡辺 建設業界が活力を持って、社会資本の整備や維持修繕を担っていただき、また災害時には、県民の皆さまの安全・安心を確保していただくために、建設業協会の理解と協力を得て、活性化プランの取り組みを進めていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
山野 協会としましては、災害の発生に対し災害協定に基づき応急復旧工事をさせていただくことが使命であると思っています。また、若い方が建設業に就職し、地域の雇用を支える魅力ある建設業界となるよう努めてまいりますので、今後もご指導いただけますようお願いいたします。
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