インフラメンテナンス 次の10年
(1)インフラへの信頼をつなぐ 笹子トンネル事故から10年 2022/12/2
9人の尊い命を奪った中央道の笹子トンネル天井板崩落事故から、きょう12月2日で10年がたつ。国の調査委員会が「わが国において例を見ない」と形容したこの悲劇をきっかけに、インフラ保全の重要性が改めて強く認識され、日本のメンテナンス行政は大きく動いた。一方で、自治体ではマンパワー不足から補修に手が回らない現場も少なくない。人口減少という圧倒的な現実を前に、暮らしと経済を支えるインフラを守り抜けるのか。「地域の守り手」を標ぼうする建設業に、重い問いが突きつけられている。
「安全性の向上という永遠の挑戦課題に取り組んでいく」。トンネルを管理する中日本高速道路会社の小室俊二社長は、事故から10年を迎えるに当たって、深い反省とともにコメントを寄せた。組織風土の見直しと人材育成、高度な点検・診断技術の導入など、なすべきことは多岐にわたる。
こうした取り組みは、他のインフラ管理者とも共通するものだ。高度成長期に整備したインフラの急激な老朽化に備え、政府は2013年を「社会資本メンテナンス元年」と命名。道路、上下水道などあらゆるインフラを対象に定期的な点検、診断、対策のサイクル構築を打ち出した。
しかし、昨年10月に和歌山市内で水管橋が崩落し、約6万世帯が断水。今年5月には愛知県内にある明治用水頭首工の漏水でトヨタ自動車の関連会社の工場が一時停止するなど、インフラの機能不全が市民生活や企業活動に影響する事態が続いている。
災害の頻発、激甚化が進む中で、避難路や防災インフラの機能不全は被害を拡大させかねない。
特に課題が顕在化しているのが市町村だ。道路メンテナンス年報(21年度版)によると、点検で「措置が必要」とされた橋梁のうち実際に対策を完了できたのは半数未満。土木関係予算の低迷に加えて、技術系職員数が5人以下の市町村が約半数を占めるなど、深刻な人手不足が響いた。
効率化にはICT活用が有効だが、地域建設業には機器の導入コストが立ちはだかる。そもそも公共事業量に業績が左右される企業が多く、人材確保に慎重にならざるを得ない事情もある。
メンテナンスに関わる国の委員を務める家田仁政策研究大学院大学教授は、自治体での視察を踏まえて「(メンテナンスの)契約方式、業者の育成方針も考え直さないといけない」と発言。点検・補修の対象を地域単位でひとくくりにし、複数年度分をまとめて発注すれば建設業が新技術や人材への投資を回収しやすくなると指摘した。
広域・長期でメンテナンスを進めるには、保全の優先度を考えなくてはならない。どのインフラを残すかは、地域の将来を決める重大なテーマと言える。「市民の理解と協力を得なくては」というのが家田氏の持論だ。
府中市をはじめ、一定の期間・範囲でインフラの維持管理を包括委託する自治体も出てきた。こうした事業では、インフラ管理者や市民との緊密な連携が欠かせない。建設業には「地域の守り手」としての役割を自ら打ち出し、新たな業務形態に応えることが求められる。
(2)事業モデル、技術に革新を 「イノベーションは現場から」
インフラメンテナンス国民会議 冨山和彦会長 2022/12/9
人口減少による過疎化の影響は、まず地方から顕在化する。維持管理の担い手不足にさらされるインフラをいかに守るのか。危機感を抱いた全国の自治体首長らにより、インフラメンテナンス国民会議の中に「市区町村長会議」が今年4月に発足した。インフラメンテナンス国民会議の冨山和彦会長は「自治体のリーダーの役割は大きい」と期待を寄せる。見据えるのは、メンテナンスの事業モデルを革新するようなイノベーションを現場で起こし、水平展開できる体制づくりだ。
インフラメンテナンス市区町村長会議は、自治体の首長が今後の維持管理の進め方を議論したり、インフラの重要性を広く発信したりするための場。発足から半年ほどで、全市区町村の半数超に当たる886団体の首長が参加した。冨山氏は、「自治体の危機感はこの10年間で強まった」と指摘する。
大きな課題の一つは、過疎化とインフラ老朽化の同時進行だ。自治体と建設業者の双方で維持管理に関わる人手が不足。一方で人口増加の局面で整備されたインフラは広範囲に点在しており、個別に点検や補修を発注しても仕事として成立しにくくなっているという。
「従来のモデルを転換しないといけない」と冨山氏は説く。有望視するのは、コンセッションなど民間のノウハウを生かし、業務を効率化する発注手法の導入だ。「メンテナンスは営々と続けていく仕事であり、一回ごとの入札には向かない」と強調。インフラ維持管理を広域・長期間にわたって受注できれば、地域の建設業が将来の収入を見通せるようになり、人を雇いやすくなると考える。
新技術の活用による生産性向上も課題だ。ドローンを用いた点検や人工知能による老朽箇所の抽出、ICT機器による施工支援など、ツールは充実してきている。「地方だから、人材がいないからできないという地域建設業の判断は尚早だ」
メンテナンスを巡る事業モデルや技術の革新に際して、障壁となる既存の制度の規制改革も必要になる。「コロナ禍でリモート医療が進んだように、ルールに挑戦する取り組みが出ればいい」と冨山氏は力を込める。
もちろん、すぐに決定打が見つかるとは限らない。トライアンドエラーを重ねることで自治体からロールモデルが出てくるはず。「そこで得た成果を、市区町村長会議で共有していく」
地方のメンテナンス現場の将来像の一つとして冨山氏は“兼業化”を挙げる。メンテナンスの担い手が減っていく地方では、河川や道路、水道など多種のインフラ維持管理を少数の事業者が担わざるを得ない。新設整備の事業量が多かった高度成長期は分業化・専門化が進んだが、それとは逆の発想だ。「地域で多様なインフラを管理するというビジネスモデルへの転換を迫られている」
冨山氏は、地域建設業のポテンシャルに注目する。「地域に密着した建設業にこそ、地元の課題が見えているはずだ」と述べ、メンテナンスを起点に多様な地域ニーズをすくうような業態を提案する。「やるべきことはたくさんあり、ICTなどのツールはそろってきている。地方の建設業はこれからが面白い」
(3)まずはモデルを 地域インフラを”群”で再生
国交省総合政策局公共事業企画調整課 岩ア福久課長 2022/12/16
国土交通省の専門部会が12月2日、今後のインフラメンテナンスの在り方に関する提言を斉藤鉄夫国交相に提出した。骨子は、複数自治体のインフラや、道路・河川など分野の異なるインフラの保全に関わる工事・業務をまとめて発注する「地域インフラ群再生戦略マネジメント」だ。人員・予算の乏しい小規模自治体を支える策を、どのように具体化するのか。国交省総合政策局公共事業企画調整課の岩ア福久課長は「重たい宿題だが、やらなくては」と力を込める。
提言では、複数・多分野の施設を「群」としてまとめてマネジメントする新たな手法が示された。「群」の具体化について岩ア氏は、人口や地域特性、暮らしの基盤を考慮する必要性を指摘する。来夏の国土形成計画策定に向けた議論で示された「地域生活圏」にも通じる考え方だ。「まずは、どのような地域にするのかという将来像を関係者が共有する。その上で、維持すべき機能と新たに加えるべき機能、役割を果たした機能に再整理し、施設ごとに維持や補修、更新、集約、新設などを適切に判断しなければいけない」
実際のメンテナンス工事・業務の発注では、個別施設を対象とする体制から転換し、エリアや施設を広げて長期間まとめて契約するイメージだ。予算、人員の不足に悩む小規模な市区町村にとっては、まとめて発注することで負担を大きく軽減できる。受注者にとっても、小規模な案件をばらばらに受注するより利益を出しやすく、将来の仕事の見通しも立てやすい。
まとめて発注する内容の技術的な難易度もポイントとなる。橋梁を例に取れば、軽微な補修や日常的な維持管理の場合は、地元事業者中心のJV、地域のNPO法人などで対応できるかもしれない。一方、点検内容を吟味して優先度を判断し、広いエリアの修繕を担うには一定の技術力・資本力が求められる。
ごみ処理や水道事業では自治体の枠を超えた広域行政が一般的だ。こうした分野を参考に、国交省はインフラ分野に落とし込むための課題を探る。管理者が異なるインフラの発注主体をどのように設定するかや、契約の責任の所在など、考えるべきテーマは多い。「モデルケースを整理し、ガイドラインのような形で示すことができれば」と岩ア氏は考える。
まずはモデル地区を探し、そこをベースに検討することになりそうだ。複数の企業が、地域や作業内容に応じて適切に分担できるよう、先行例を参考に受注形態も模索していく。
通常の工事のように仕様を定めて発注するだけでなく、性能規定型の発想も取り入れる。「受注者の創意工夫を生かして効率化し、工夫次第で利益も出せるようにする」と岩ア氏は説く。
将来にわたってインフラを適正にメンテナンスするには、建設業が地域の守り手として存続することが欠かせない。「メンテナンスは今後の重要な仕事。制度をしっかり整えるので、地域の作り手、守り手である皆さんも担い手をしっかりと確保し、参入してほしい」
(4)維持管理の新たな枠組を 地域社会が直面する危機
杜の都建設協同組合 深松努理事長 2022/12/23
建設作業員の高齢化と若手入職者の減少や、事業の先行きに対する不透明感が、地域の防災やインフラメンテナンスを担う地域建設業の将来に影を落としている。
全国建設業協会が7月〜8月上旬に会員企業に対して行ったアンケート(回答1341社)によると、災害時などへの緊急対応で、人員を十分あるいは最低限確保していると回答した企業の割合は、現在は79%だが、5年後については54%と半分に減少する。除雪に対応する人員を確保している割合も、現在の71%から、5年後には52%に減る。
地球温暖化に伴う風水害の激甚化や大地震の増加など、災害リスクが年々高まるとともに、インフラの老朽化が急速に進む中、地域建設業が経営を維持し、使命を果たし続けられる仕組みづくりが切実な課題となっている。その有力な枠組みの一つが業務の包括的な契約だ。
仙台市では、仙台建設業協会の会員が2017年、災害時の対応や、公共施設の点検や維持管理などを担う「地域における安全安心・維持管理のパートナー」として、包括的発注の受け皿となる「杜の都建設協同組合」(深松努理事長)を設立した。政令市レベルでは初の建設業協同組合で、現在62社が参加する。
組合設立を具体化したきっかけは、東日本大震災の際の災害廃棄物の撤去工事だった。膨大な量の廃棄物の撤去を、仙台建設業協会として市と契約することができず、会員ごとの大量な契約事務が負担になった。「再び同じようなことが将来起こる。その際の備えとして、まず組合の設立を検討した」と深松理事長は振り返る。
また、東日本大震災の復興事業が進捗し、地元の工事量が減っていく中、雇用を含め地域建設業が経営を持続していくためには、毎年の受注を安定させる必要があると考えた。その手段として、河川や道路、下水道などの維持管理業務の、共同組合による複数年契約での受注が有効だと判断、組合設立を進めた。
災害への対応で組合は、19年10月の台風19号の際の復旧工事で活躍した。仙台市内では、大小合わせて約450カ所の農地の被害が発生した。一つ一つは少額工事で、ばらばらに発注されても受注は難しい。そこで組合による復旧工事の受注を提案。大きく9エリアに分けて契約し、組合員が総力を挙げて工事を進めた。その結果、翌年の田植えまでに復旧を間に合わせることができた。
インフラの維持管理で組合は、仙台市の中心部を流れ、市のシンボルにもなっている広瀬川の河川管理業務を19年3月から受託している。また、仙台市が若林区で試行している複数年契約の下水道維持管理の民間委託で、工事を下請けで手掛けている。
組合は21年度、官公需適格組合として認められた。今後、道路や公営住宅を含め、幅広い公共施設の維持管理の受け皿になっていく方針だ。
深松理事長は「住民の安全安心を守るのが行政の最大の使命であり、最前線に立つのが建設業。しかし、高齢化した建設技能者の大量離職など、建設業は存続の瀬戸際にある」と、いまそこにある危機≠指摘。地域社会を守り、維持していくための新たな制度整備を急ぐ必要を訴える。
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